婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 そう言って、丁寧に頭を下げる。
 あのときは、サルジュのためにそうした方がいいと判断した。
「君の助けになれて、よかったよ」
 けれど今は心からそう思っていた。

 忙しい両親は別だが、夕食のときはいつも兄弟全員が集まることにしている。
 今日も一番先に到着したユリウスは、後に続く兄弟の様子を注意深く見つめていた。
 長男で王太子でもあるアレクシスは、妻のソフィアとともに現れた。穏やかな笑顔でソフィアの手を取る姿は、いつもと変わらないように見える。
 次期国王になる者として生まれた長兄は、その分光の加護も強かった。なかなか魔力を制御することができず、学園に入る年になるまで王都から離れた場所で暮らしていたほどだ。国王である父も昔はそうだったようで、王太子としての宿命なのかもしれない。
 それでも年に数回は戻ってきていた。六歳年上の兄は母親が違うユリウスを、お前が一番俺に似ていると言って可愛がってくれたのだ。子どもの頃は、そんな兄と離れて暮らすことが寂しくて仕方がなかった。
 次兄でユリウスとは母親も同じであるエストも、アレクシスのすぐ後に来た。
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