婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 そして学園に入学したばかりのエミーラがクラスメイトを不当に虐げていたことが判明して、婚約解消を決めたばかりだ。
 あれから再現魔法の精度も上がり、今度こそ完全に証拠を掴むことができた。問題のあるキーダリ侯爵家との婚姻は完全になくなり、向こうは決まっていた嫡男の婚約さえ解消になってしまったという。もしその嫡男がまともな人間なら救済措置は必要かと思っていたが、それも不要のようだ。
 だがユリウスの婚約が解消されたと聞けば、また各国から縁談が持ち込まれるかもしれない。この大陸が置かれた状況は年々厳しくなり、どの属性の魔法も使える光の魔導師を望む声は大きい。不穏な動きを見せるベルツ帝国だけではなく、他の国もこちらの動向を伺っている。
 王太子であるアレクシスはともかく、身体があまり強くないエストと、この国になくてはならない存在であるサルジュに矛先が向かうよりは、自分が標的になった方がいい。
「そんなに急いで決めるつもりはないよ」
 だからそう言ったが、アレクシスもエストもそれでは駄目だと反論する。
「お前はいつも人の心配ばかりだ。もっと自分のことも考えろ」
「……学園に良い人はいないだろうか」
 心配する兄ふたりの隣で、サルジュはずっと考え込んでいる様子だった。
 いつものように研究のことだろうと思っていたが、ふと顔を上げて、こんなことを言う。
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