婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 マリーエ自身がこんな経験をしていたから、大切なものをよりによって噴水の中に放り込まれたアメリアを放っておけなかった。
(大切な資料を水の中に放り込むなんて)
 もしかしたらアメリア本人よりも、マリーエの方が憤っていたのかもしれない。
 貴族社会はそういうものだと言われてしまえばそれまでだが、この学園の生徒達は周囲に流されすぎる。このままでは例年よりも多くの退学者を出すことになってしまうのではないか。そんなことすら考えた。
(我が国の王族の方々が完璧すぎるから、危機感がないのかもしれない)
 友人になったアメリアの縁で、深く関わることになった第三王子のユリウス、第四王子のサルジュを見てそんなことを思う。
 安心するどころか、この国を取り巻く情勢は年々厳しくなっている。
 冷害による不作。それに伴う食糧の不足。
 今はまだ、山脈のこちら側の国では友好を保っているが、年々悪化していくだろう食糧不足に各国も焦燥を抱いている。何かきっかけになってしまうのかわからないくらい危うい均衡だ。
 輝かしく完璧な王族の存在に安心していいのは、この国に住まう人達だけだと、マリーエは考えていた。貴族として生まれたからには、王族の補佐と自分達の領民を守ることに全力を注ぐべきだ。
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