婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。色々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。
 見上げた空は去年と同じ色をしていて、急激に環境が変わったことによって不安に思っていた心が少し慰められる。
 そしてサルジュは花壇の奥に植えられていた白い花を指さした。
「この花だ」
 幻の花というから、薔薇のような豪華な花なのかと思っていたけれど、実際はとても可憐な花だった。背の低い茎から伸びた先には、小さな花がたくさん咲いている。
「可愛い」
 思わずそう呟くと、サルジュは微笑む。
「これは、本来なら春から夏にかけて咲く花だ。冷害に強い小麦を作ろうとしていたとき、実験として品種改良をして秋に咲くようにした」
 もとになった花は、大型の花を咲かせるそうだ。
「これは魔力の満ちた土でなければすぐに枯れてしまうから、持ち帰ることはできなかったのだろう」
 この花壇には学生なら誰でも出入りできるから、誰かが種を持ち帰ったのかもしれないし、鳥などが郊外まで運んだのかもしれない。それがちょうど魔力に満ちた土地に行きついて、そこで花を咲かせたのだ。
「サルジュ様が作った花だったんですね」
「そうだな。そういった植物は他の生態系に影響を与えないように、なるべく外に出さないようにしていた。だから誰も知らなかったのだろう。郊外の花も魔力がなくなれば枯れるが、念のために回収させよう」
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