離縁するつもりが、極上御曹司はお見合い妻を逃がさない
代理のお見合いでご成婚?
「苦しい……」


料亭『味楽(みらく)』を前にして思わずつぶやく私、月島蛍(つきしまほたる)は、まるで丸太相手のように容赦なく締めつけられた帯にこっそり指を入れる。

しかし、びくともしない。

今日は成人式以来、六年ぶりの着物を纏(まと)ったのだが、着慣れない上に『苦しくないですか?』という質問に、にっこり笑って『はい』と嘘をついてしまったのがあだとなっている。

でも、着物であれば多少苦しいのは当然だと思ったのだから仕方がない。

帯の締めつけの苦しさに加えて、政治家も足を運ぶという高級料亭を前に緊張はピークに達する。


「酸素はどこ?」


そんな泣き言を言いたくなるくらい、まともに息が吸えないほどガチガチになっていた。

着物は大丈夫。髪も乱れていない。
落ち着け、私。

心の中で何度も自分に言い聞かせる。
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