離縁するつもりが、極上御曹司はお見合い妻を逃がさない
今日の着物は母が若かりし頃に着ていたという、淡い桜色の地に四季の草花や花鼓がちりばめられた訪問着。

外交官である父のお供を海外でするときに、着物は役立ったのだそう。

胸のあたりまである髪は和服に合うように低い位置でまとめてもらった。

少しは落ち着いた雰囲気が出ていることを期待したいが、慣れないことばかりであたふたしている。


「よし」


約束の十一時少し前。
覚悟を決めた私は、味楽の立派な数寄屋門をくぐった。

着物姿の仲居について、さつきが競うように咲き誇る庭が見える廊下を進む。

どこからか漂ってくるい草の香りは、私の大好きなにおいだ。
幼い頃、海外から帰ってくると、和室でごろごろするのが習慣だった。

いろいろな国に行ったが、やはり私は日本が好き。

優雅な着物や趣のある建物、そして手の込んだ日本料理。
こうした伝統文化を持つこの国はとても心地がいいのだ。
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