離縁するつもりが、極上御曹司はお見合い妻を逃がさない
とはいえ、今はそれらを楽しむ余裕もない。


姿勢を正して視線は下げない。
少しだけ口角を上げて笑顔をキープ。

何度も心の中で唱えながら長い廊下を進む。

とある部屋の前で膝をついた仲居が「お連れさまがいらっしゃいました」と中に声をかけた。

今日はお見合いなのだ。
――ちょっと、訳ありの。


「どうぞ」


中から低い声が聞こえてきて、緊張を煽(あお)られる。


両手をそろえた仲居が静かに障子を開けると、男性が立ち上がりなぜか一瞬目を大きく見開いた。

けれどもすぐに笑顔になり、軽く頭を下げてくれる。

身長は百八十センチほどあるだろうか。

すらっとした体格ではあるけれど、肩幅が広く胸板も厚いせいか、ダークネイビーのスーツがよく似合う。

紺地に小紋柄のネクタイもおしゃれだ。

くっきりした二重の目は大きく、鼻筋も通っている。

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