離縁するつもりが、極上御曹司はお見合い妻を逃がさない
催促?


「あっ!」


つまり、下の名で呼べと言っているんだ。


「どうぞ」


にこっと笑って身構えられては、余計に緊張してしまう。


「あの……あっち向いててください」
「いや、それはちょっと」


おかしそうに肩を震わせる彼が「どうぞ」と視線を合わせてくるので照れくさくてたまらない。


「な、直秀、さん」


覚悟を決めた私は、うつむいて口にした。


「はい。奥さん」


奥さんという言葉にこれほど威力があるとは知らなかった。

ノックアウトされるくらいの衝撃で、めまいを起こしそうだ。


私、彼の奥さんになるんだ……。

話を受けたからには、腹をくくらなくては。


「ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いします」

「とんでもない。こちらこそよろしく」


彼に大きな手を差し出されて握ると、優しく微笑んでくれた。
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