特等席〜私だけが知っている彼〜2
そう言い、心愛は椿芽を離すと去って行った。椿芽は何も言えずにその場に座り込む。体が小刻みに震え、目の前がぼやけていった。

心愛の言う通りなのかもしれない。そう椿芽は恐怖でいっぱいになった頭で思う。王子様のような美貌を持った五十鈴には、お姫様のような心愛がお似合いなのかもしれない。街の人へのインタビューでも、「心愛ちゃんなら許せる」といった声も多かった。

「……情けないわね」

声も出さずに椿芽が泣いていると、声をかけられる。顔を上げれば、冬子が腕組みをしながら椿芽を見下ろしていた。

「いつからそこに……?」

椿芽が涙を拭いながら訊ねると、冬子は「卯月心愛があなたに言いたいことを言っている時から」と淡々と答える。あの様子を見られてしまったことに椿芽は恥ずかしくなり、再び俯いてしまった。そんな椿芽に、冬子は問いかける。

「あなたは、あの女の言う通りに五十鈴と別れるつもりなの?」

「それは……世間体を気にするなら、五十鈴くんのために別れるべきかもしれません」
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