特等席〜私だけが知っている彼〜2
「椿芽……」

大好きな恋人の顔を思い浮かべ、五十鈴はポツリと名前を呟く。もしも、椿芽との交際を発表する会見ならば、「緊張するね」と言い合いながらも微笑んでいたかもしれない。

「五十鈴くん、そんな顔しないでよ〜。これから私たちの交際についての会見なんだから!」

心愛が五十鈴の腕に抱き付いてきた。それを振り解こうとすると、「いいの?そんなことして」と睨まれる。五十鈴は心愛から目を逸らし、俯いた。

必死に心愛との交際はないと否定し続けていたのだが、心愛に脅されてしまったのだ。

「私と付き合わなければ、椿芽さんがどうなるかわからないわよ?」

椿芽に辛い思いをさせたくない。その一心で五十鈴は今ここにいる。だが、心愛のものにならなくてはならないというのに、椿芽に「さよなら」の一言すら伝えられていない。

「椿芽……」

もう一度五十鈴の口が椿芽の名前を口にした時、「そろそろ時間です」と心愛のマネージャーが部屋のドアをノックする。
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