Butler and Isla
メイドの一人に話しかけられ、ジュリエットはまたため息を吐きたくなる。明日行われることを考えると、胃がキリキリと痛み出してしまう。

貴族の女性は十六歳になると、社交界デビューすることが認められ、舞踏会に出席しなくてはならない。これをデビュタントと言う。

ジュリエットは明日の夜開かれるパーティーに出席し、誰かとダンスを踊らなくてはならない。社交界デビューをすれば一人前の女性として認められ、結婚の話も入ってくる。

『ダプシェ家に相応わしい家の男と結婚するのがお前の役目だ』

父親に昔言われた言葉を思い出す。多くの貴族の女性はデビュタントに胸を弾ませると聞いていたが、ジュリエットの心は深く沈んでしまっていた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

メイドに心配そうに訊ねられ、ジュリエットは慌てて笑みを顔に浮かべる。この屋敷に来てから、作り笑いが得意になってしまった。

「大丈夫よ。緊張してしまっていて……」
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