Butler and Isla
「ノエ……」

その声を、その瞳を見ただけで、ジュリエットの心の中が喜びで溢れていく。人は何と複雑で単純な心を持っているのだろうか。

「ジュリエットお嬢様でしたか。どうかされましたか?」

ノエの警戒していた目は、一瞬にして安心したようないつもの穏やかな目に変わる。そして、ジュリエットに近付いて手を差し出した。

「なかなか眠れそうになくて……」

ジュリエットは胸を高鳴らせながら、差し出されたその手を取る。白い手袋がはめられたノエの大きな手から伝わってくる温もりに、時間が止まってほしいと彼女は心から願ってしまう。

「緊張されているのですか?」

ノエに訊ねられ、「それはないわ」とすぐにジュリエットは答える。デビュタントが楽しみでも、どのような家の殿方が来るのかも、ジュリエットには興味がない。その時、あることをジュリエットは思いついた。

「ノエ、あなた踊れる?」

「えっ?まあ、少々なら踊れます。ですが、先生のようには踊れませんが……」
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