エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
「澄夏は俺を避けてただろう? 連絡してもときどき短い返事がくるだけだったから、さすがに気付くよ。初めは俺の行動に怒っているのかと考えたが、クローゼットの荷物がごっそり減っているのを見て、深刻さを理解した。それでも離婚を言い渡されるとまでは思っていなかったけれど」

物悲しく言われ、澄夏の胸に罪悪感が広がる。

「あの、出て行くときに話さなくてごめんなさい。でもどうしても言えなくて」

「なぜ?」

澄夏はそっと目を伏せた。そうすることで自分の内面を見つめて当時の気持ちを思い出す。

「離婚しようと考えていたけど、まだ気持ちが揺れていて、冷静に話をする自信もなかったから」

「今言いだしたのは、決心出来たから?」

澄夏は頷いた。

彼にしがみついて悩み続けるよりも、一時の悲しさを乗り越えて前に進もうと決心したのだ。

「私たちふたりにとって、その方がいいと思った」

そう答えると、一哉が溜息を吐いた。きっと失望しているのだ。

澄香の方は彼の言葉を聞き、決意が揺らぎはじめていた。

(私だって本当は離婚なんてしたくない)

けれど、心のまま彼の胸に飛び込むには問題が多過ぎる。
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