エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
まるで早く働けと言われているようだ。独り言で文句を言いつつ水筒のお茶をごくごく飲む。
ひんやりとした液体が喉を通り、体に入っていく感覚が心地よい。

「美味しい、生き返る!」

水分補給をして、ようやくひと息つけてほっとした、はずだった。

ところが次の瞬間、澄夏は手にしていた水筒を地面に落としそうになった。

それまで全く気付かなかったけれど、目の前の大きな木の幹にもたれるようにして、長身の若い男性が佇んでいたのだ。

彼は驚くくらい整った顔をしているが、その表情は怪訝そうで明らかに澄夏を怪しんでいるようだった。

「え? あ、あの……いつからそこに?」

(私、変な独り言、言ったよね。だからおかしな変な奴だって思われているのかも)

どうやって誤魔化そうか急ぎ考えるが、なにをしても無駄な気がした。

しかも更にショックな事実に気が付いた。

(この人、須和一哉さんなんじゃ……)

こんなに近くで見るのは初めてだけど、多分間違いないと思う。

憧れの人に、気を抜きまくりのだらしない所を見られ変な人と思われたショックで、澄夏はパニックに陥っていた。

「俺? 始めから居たけど」
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