エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
確かに当時の自分は離婚しなくてはいけないという強迫観念のようなものに迫られて、視野が狭くなっていたと今なら分かる。

離婚後の生活に前向き……という変な方向に向かっていた。

「いつもの余裕のある澄夏に戻ってよかった」

「うん、ありがとう」

「ところで仕事はどうするの? 元さやに戻っても働きたいって言ってたじゃない」

「それなんだけど、今でもなにかをしたい気持ちはあるけど急がなくていいかなと思って。家庭を守るのも大切な仕事だしね」

あのときは将来の不安から自立しなくてはならないと思っていたし、自分を必要としてくれる居場所が欲しいという気持ちが大きかった。

だけど、夫婦として生きていくと決めたのだから、ふたりでひとつなのだ。それに夫がいつだって必要としてくれている。

「その考えもありだよね」

仕事に生きる瀬奈には共感出来ない意見かなと思っていたけれど、意外にも彼女はしみじみと頷いた。

「私も今は仕事命だけど、出会いがあれば変わるかもしれないな。ああ、一哉さんみたいな人現れないかな」

「一哉さんみたいな人って?」

「妻を大事にしてくれる人」

「現れるよ」

愛している人には誰だって優しくなるし、大切にしてくれると思うから。
< 220 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop