エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
落選したときは先のことなど考えられないと言い、どんなに周りが言っても前向きにならなかった。だから周りは父が政界に復帰するのは無理だろうと判断していた。

「一時は引退を決意していたが、まだやり残したことがある。未練をなくせなかった」

「そうなんだ……私はいいと思うけど」

強力なライバルがいるから再選はきっと簡単ではないけれど、それでも目標を持って進んでいる父を見たいと思う。

母が張り切っているのは、そんな父の決意が嬉しいからだ。

「まあ、一哉君に断られたってのもあるが」

父は少し照れたのかぶっきらぼうに言う。

「一哉さんに?」

なんのことか分からず澄夏は首を傾げる。

「彼に地盤を託して引退すると伝えたらまだ早いと言われた。もう一度頑張ったらどうかと進めてくれたのも彼だ」

「……もしかして、以前ふたりで飲んでいたときのこと?」

「ああ。自分はまだまだ未熟だからと言っていたな。だが恐らく俺の未練を見抜いていたんだろうな」
< 222 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop