エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
「一哉君にそう言われたのか?」

「言われていないけど、私はそう思っていて……」

「お前の思い込みでくだらないことを言うな。離婚は許さない」

「お父さん……」

「それよりも早く母さんのところに行ってやりなさい。娘の顔を見たら少しは元気になるだろう」

話題を変えた父にこれ以上詰め寄っても、状況がよくならないのは長年の経験で分かっている。

澄夏は書斎を出て、自室に戻った。
父に言われなくても母の病院に行く予定だったので、そのまま外出する。


母が入院している病院は、実家から車で二十分程にある私立の総合病院だ。
駅を挟んで反対側にある公立の総合病院と共に、地域の医療を担っている。

総合受付を通り病室に向かおうとしていたところ、売店に母の姿を見つけた。

「お母さん」

澄夏の声に振り返った母の顔色は、ここ最近の中で一番よく見えた。表情も明るい。

「澄夏、来てくれたのね」

「うん。なにを買いに来たの?」

「今日は気分がいいから中庭を散歩しようと思ってね。飲み物を買おうとしていたのよ」

母は手に持っていたお茶にミルクティーを追加してレジに持っていき支払いをした。

「せっかくだから付き合ってね」
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