エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
「もちろん」

母から買ったものを受け取り、並んで中庭に向かう。足の具合は大分よくなってきてはいるものの松葉づえの扱いになかなか慣れないようで、かなりゆっくりした歩みだ。

春の日差しが心地よい中庭には、入院患者がくつろげるようにベンチが程よい間隔で並んでいる。

しばらく歩いてから空いているベンチに並んで座った。

「結構歩けるようになったんだね」
「そうね。特に今日は調子がいいのよ」

足の怪我は別として、母の体調が優れないのは精神的な面が大きいと聞いているから意外だった。

「なにかいいことがあったの?」
「そういう訳じゃないけど、天気がいいからかしら」

母は青天の空を見上げた。

「澄夏が来てくれたしね、今日はいい日だわ」
「明日も来るよ。しばらくこっちにいることにしたの」
「え……」

母が困惑して澄夏を見る。

「大丈夫なの?」
「なにが?」
「一哉さんは仕事でしょう? 食事の支度とか着るものの用意とかはどうするの?」
「大丈夫だよ。一哉さんはお父さんと違って、ひとりでなんでも出来るし」

父は亭主関白を体現したような人で、靴下さえも母に用意して貰っていた。
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