エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
南雲真咲の存在も、父の失脚も重要な要素であるけれど、でももし一哉が澄夏を必要としてくれていたら、自分から離婚しようと考えはしなかっただろう。

「なにがつらいって、お父さんが落選してすっかり落ち込んでいるのに、助けになってあげられないところね」

母は自分の存在意義を見失って、心と体のバランスを崩してしまったのだろうか。

「お父さんはお母さんに早く元気になって貰いたいと思ってるよ。今日も寂しそうにしていたもの」

「本当に? お見舞いに来ても仏頂面だけどねえ。仕方なく通ってるのだと思ってたわ」

「お父さんが甘い顔をしてたら逆に怖いでしょ?」

母は「そうね」と言って声をあげて笑ってから呟いた。

「頑張って治さないとね」
「うん、その意気だよ」

母に前向きになって欲しくて、澄夏は明るい声を出した。

(私もいつまでもくよくよするのはやめなくちゃ)

離婚を反対する父を説得するのは苦労しそうだし、あの様子では実家に出戻りなんて絶対に許されないだろうけれど。

(仕事と住むところを探さないと……)

今すぐ前向きになるのはなかなか難しいけれど、とにかく動きだそうと澄夏は決心した。

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