エリート官僚は政略妻に淫らな純愛を隠せない~離婚予定でしたが、今日から夫婦をはじめます~
澄夏自身に溢れる程の魅力があれば良かったけれど、そんな自信はない。

結婚して専業主婦になったとき、忙しい夫を支えて家庭のことをしっかりやろうと決めたのに、それすらままならない状況だ。

彼は正義感が強く誰にでも優しい人だから、実家が困窮している妻を追い出したりは出来ないだろう。
でも同情だけで結婚生活を続けて貰い引け目を感じるような生活は彼にも自分にも辛いこと。

(もし一哉さんが本音では離婚したいと思っていたら……)

考えると不安がどんどん大きくなり、近ごろは心身共に弱っているのを感じる毎日だった。



午後は父の代理で都内に住む遠縁を訪ねる予定になっているので、早めに夕食の下ごしらえを済ませることにした。

一哉は毎日遅くまで残業で家で夕食を取る機会は少ないけれど、必要な場合に備えていつも用意している。

キッチンに向かおうとしたとき、スマートフォンが鳴った。

画面には幼い頃からの親友である渥美瀬奈(あつみせな)の名前が表示されている。

「はい」

《澄夏、久しぶり。今話せる?》

応答すると直ぐに歯切れ良い声が耳に届いた。
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