シークレットの標的(ターゲット)
もうそのままずっと黙っててくれてもよかったのに。
女のプライドが傷ついたような微妙な感情にため息が漏れる。
「騙してごめんな」
「妊娠したらどうしようってちょっとだけ心配した。絶対するわけないのに。ばかみたいだわ、わたし」
複雑な感情を自制できずイラッとして乱暴な口をきいてコーヒーを口に運ぶ。
「それもこれも全部俺のせいだから、もっと怒っていいよ」
「ねえ、悪いと思ってないでしょ。ずいぶん軽い調子で言ってくれちゃって」
半ば八つ当たりだってことはわかっている。でも悔しいし言わずにはいられなかった。
「だから言ったろ。俺はどうしても森山に望海を渡したくなかった。森山だけじゃなくて他の男にもだ。こんな形で騙したのは悪かったけど、これだけ出張が多かったら他の男より分が悪いんだよ。だからちょっと汚い手を使わせてもらった」
「本気?」
「もちろん。何度でも言うけど、他の男に譲りたくない」
「…呆れた」
「どうとでも言ってくれ。俺の気持ちは変わらないから。それに返事も急がなくていいって言ったろ。俺の近くでゆっくり考えてくれ」
「やっぱり緒方さんって変な人ね。どうして私が自分のことを囮にしたり騙すようなことをする男の隣にいなくちゃならないのよ。あり得ないわ」
酷い言葉が次々と口から出てきてしまう。
違う、本当はこんなことを言いたいんじゃない。
私はあの夜、あんなことをしておきながら手を出されなかったことがショックなのだ。
言えないけど。
思ったより緒方さんに惹かれている自分に気が付いて俯いた。
他の男に譲りたくないなんて言ってるわりに手を出さないのは友人として好ましくて女としての魅力はイマイチだってことなんだろうか。
「これで俺の隠していることは業務内容以外は全部打ち明けたな」
すっきりした表情でコーヒーを口に運ぶ緒方さんを恨みがましい目で見てしまう。
なんだろう、このモヤモヤ感。
私は全然すっきりしない。
「家主が帰ってきたことだし、私も自分の部屋に帰るわ」
やりきれない気持ちで立ち上がろうとすると正面からポンッと肩口を押されてバランスを崩した私はころんっとソファーに逆戻り。
「そう簡単に逃げられると思う?」
緒方さんの黒い微笑みに肌が粟立つ。
「だ、だって返事は急がなくていいって。ゆっくり考えてって言ったじゃない」
「そう言ったけど、《《俺の近くで》》って言ったよな」
それって、そんな直接的な意味だったってこと?
膝が当たるくらい近付いて座り直してきた緒方さんに驚いて間隔を開けようと腰を浮かせると、肩を抱き寄せられた。
うきゃー。
「ああああああの、わたし魅力がないんじゃなかったの?」
「ん?誰がそんなこと言った?」
「いや、あんな状態でもあの晩、手を出されてないし」
「酔っ払いに手を出すほど俺の理性は飛んでなかったってだけの話だ。手を出していいなら今からお願いしていいか?」
にこりと微笑まれ、一気に顔から全身が熱くなる。
「いいいいいいえ、いえ、ちょっとそれはどうかと~」
あせあせする私に緒方さんはくくくっと笑いだした。
「ここからは近くで積極的にアピールしていくから。望海はゆっくり考えてくれていいんだぞ。でも、望海にそんな時間があるといいな」
え。
輝くような笑顔に似合わない不穏な響きを含んだ言葉に思わず緒方さんの顔を凝視した。
がっちり目が合うと笑みが深くなり、不意に顔が近付いてきて額にキスが落ちてきた。
一瞬だったけど、腰が抜けそうになった。
ヤバイ、ヤバいよ、この人。
女のプライドが傷ついたような微妙な感情にため息が漏れる。
「騙してごめんな」
「妊娠したらどうしようってちょっとだけ心配した。絶対するわけないのに。ばかみたいだわ、わたし」
複雑な感情を自制できずイラッとして乱暴な口をきいてコーヒーを口に運ぶ。
「それもこれも全部俺のせいだから、もっと怒っていいよ」
「ねえ、悪いと思ってないでしょ。ずいぶん軽い調子で言ってくれちゃって」
半ば八つ当たりだってことはわかっている。でも悔しいし言わずにはいられなかった。
「だから言ったろ。俺はどうしても森山に望海を渡したくなかった。森山だけじゃなくて他の男にもだ。こんな形で騙したのは悪かったけど、これだけ出張が多かったら他の男より分が悪いんだよ。だからちょっと汚い手を使わせてもらった」
「本気?」
「もちろん。何度でも言うけど、他の男に譲りたくない」
「…呆れた」
「どうとでも言ってくれ。俺の気持ちは変わらないから。それに返事も急がなくていいって言ったろ。俺の近くでゆっくり考えてくれ」
「やっぱり緒方さんって変な人ね。どうして私が自分のことを囮にしたり騙すようなことをする男の隣にいなくちゃならないのよ。あり得ないわ」
酷い言葉が次々と口から出てきてしまう。
違う、本当はこんなことを言いたいんじゃない。
私はあの夜、あんなことをしておきながら手を出されなかったことがショックなのだ。
言えないけど。
思ったより緒方さんに惹かれている自分に気が付いて俯いた。
他の男に譲りたくないなんて言ってるわりに手を出さないのは友人として好ましくて女としての魅力はイマイチだってことなんだろうか。
「これで俺の隠していることは業務内容以外は全部打ち明けたな」
すっきりした表情でコーヒーを口に運ぶ緒方さんを恨みがましい目で見てしまう。
なんだろう、このモヤモヤ感。
私は全然すっきりしない。
「家主が帰ってきたことだし、私も自分の部屋に帰るわ」
やりきれない気持ちで立ち上がろうとすると正面からポンッと肩口を押されてバランスを崩した私はころんっとソファーに逆戻り。
「そう簡単に逃げられると思う?」
緒方さんの黒い微笑みに肌が粟立つ。
「だ、だって返事は急がなくていいって。ゆっくり考えてって言ったじゃない」
「そう言ったけど、《《俺の近くで》》って言ったよな」
それって、そんな直接的な意味だったってこと?
膝が当たるくらい近付いて座り直してきた緒方さんに驚いて間隔を開けようと腰を浮かせると、肩を抱き寄せられた。
うきゃー。
「ああああああの、わたし魅力がないんじゃなかったの?」
「ん?誰がそんなこと言った?」
「いや、あんな状態でもあの晩、手を出されてないし」
「酔っ払いに手を出すほど俺の理性は飛んでなかったってだけの話だ。手を出していいなら今からお願いしていいか?」
にこりと微笑まれ、一気に顔から全身が熱くなる。
「いいいいいいえ、いえ、ちょっとそれはどうかと~」
あせあせする私に緒方さんはくくくっと笑いだした。
「ここからは近くで積極的にアピールしていくから。望海はゆっくり考えてくれていいんだぞ。でも、望海にそんな時間があるといいな」
え。
輝くような笑顔に似合わない不穏な響きを含んだ言葉に思わず緒方さんの顔を凝視した。
がっちり目が合うと笑みが深くなり、不意に顔が近付いてきて額にキスが落ちてきた。
一瞬だったけど、腰が抜けそうになった。
ヤバイ、ヤバいよ、この人。