シークレットの標的(ターゲット)
「気持ちが通じ合ってないのにヤったらただの性欲解消だろ。望海とはそんな虚しいことはしたくない」

それは喜んでいいんだろうか。

「まあちょっと勿体ないとは思ったけど。あとの楽しみにとっておくっていうのも悪くないと思ったし、しらふの望海を抱くのがいいに決まってる」

ああ、もう直接的に言うのはやめて。

「・・・すみません。もうキャパオーバーなんでちょっと抑えてもらっていいですか」
両手を突っ張って緒方さんの胸を押した。

自慢じゃないけど私の恋愛経験値は高くない。
百戦錬磨の緒方さんの猛攻に耐えられるか実に怪しい。

「酔って潤んだ瞳の望海もかわいかったけど、仕事中の毅然としてる望海もいい女だし、こうして素顔の普段の望海の姿もぐっとくる」

わたしの髪を一房手に取りくりくりと指に絡めてもてあそびながら囁くのはやめて。

「共通の話題だけじゃなくて自分が知らない話でも興味深げに聞いてくれる素敵な女だ」

も、もう限界。フェロモンまき散らしながら話しかけるのはやめて。

「ーーーポルチーニ茸のリゾットがあるが、朝食にするか?」

「はいっ!いただきます!」

賛成です。
この腰が抜けそうになる甘い言葉責めから解放されるのも美味しそうな朝食をいただけるのも大賛成。

ちゅっ。

まさに不意打ち。
わたしの頬にキスをして緒方さんが立ち上がった。

「どぅわぁっ」私の口から変な声が漏れて私はソファーに崩れ落ちた。
も、もう、私の心臓が耐えられないかもーーーー。

クスクス笑いをしながら緒方さんがキッチンに行き、私は息も絶え絶えにソファーでうずくまる。

か、帰りたい。
このままだと殺される。



ポルチーニ茸のリゾットは予想通りのお味でとても美味しゅうございました。
でも、よく考えたら緒方さんは徹夜明けだったんじゃ・・・と気が付いて食後に仮眠をとるように勧めた。

「4時半に帰ってきてここで2時間半寝てるから大丈夫。一緒に寝てくれるなら仮眠をとってもいいけど?」

そんな馬鹿なことをと一蹴すると「そう言うと思った」と笑顔が戻ってきた。

調子が狂って仕方ない。
今朝はずーっとこんな調子で私が何を言っても緒方さんは笑顔で返してくるのだ。
かわいげがないことも憎まれ口でも。

そしてちょっとのスキンシップ。

そんなことに惑わされてドキドキしてーーーー。
今朝までずっと怒っていたのに。
囮にされたり女除けにされたり、妊娠の可能性なんて嘘つかれてたり。
だというのに、甘い言葉もスキンシップも嫌じゃない。

ああ、自分の恋愛偏差値の低さが恨めしい。


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