シークレットの標的(ターゲット)
主任のダメージは大きかったようだ。

「宮本さんが悩んでいたことにも全く気が付かなかったの。彼女おとなしい方だし、仕事は問題なかったし。でも彼女が小池さんに張り付いていたのはシークッレットさんに対する情報を手に入れるためだったんだと思うと小池さんもかわいそうよね・・・」

主任ははぁっとため息をついた。
お弁当にも手を付けていないし、相当落ち込んでいる。

「伯父には『綾夜に言ったとしても話をややこしくさせるだけで結果は変わらなかったはずだ』なんて言われちゃうし。その上、『上っ面を気にしている綾夜に他人の隠しているものが正しく見えるはずがない』なんて正論突っ込まれちゃった。私ももう外見を取り繕うことにも疲れていたし、今朝はメイクに長い時間を使うほどの気力も無くて、パパッと塗ってちゃちゃっと描いて終わり。髪の毛は今朝言ったとおり、焦がしてこんなになってたし」

そっか、伯父のタヌキ常務にやり込められちゃったってワケですね。

「でもいいきっかけになったんじゃないの。主任のその変装、ちょっとおかしかったもの。旦那が嫌がるからって自分の容姿をそこまで隠すって、自分のこと否定してるのと同じでしょ。何も悪いことしてないのに。その顔に生んでくれたご両親にも悪いわよ」

草刈先生にズバッと言われ主任は更に顔色を悪くした。

「宮本さんと向田だっけ、そのカップルの関係も歪んでるけど、主任とこも相当だから。ここで関係改善して長い夫婦生活円満に過ごすきっかけにすればいいんじゃないの。向田ってヤツは矯正が可能だからってTHコーポレーションの社長預かりになったんでしょ。どんな僻地に飛ばされてどんな教育が待ってるんだか知らないけど、宮本さんがついていってやり直すってのも有りだし、きちんと別れて離れたところでいちから出直すってのも有りでしょ。どっちみち彼女のことは主任が気にすることじゃないわ」

草刈先生の言葉は鋭いけれどわたしもそうだと思う。
ここでオブラートに包んだ慰めは却って主任のためにならないし、あの変装メイクをやめて一歩進み出した主任の足を引っ張りかねない。

「小池さんの事も心配ないと思いますよ。彼女は今新しい出会いに夢中になってますし、話し相手ならわたしも彼女の同期もいますしね」

小池さんは私と話をしたいと言っていた。
表情がかなり明るかったから週末のパーティーでいいことがあったに違いない。
今日の終業後は予定があると言っていたから、明日のランチの約束をした。どんな報告をしてくれるのか今から楽しみで仕方がない。
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