シークレットの標的(ターゲット)
「そう、そうなのねーーー」
俯きため息をつく主任の背中を草刈先生が叩き周囲にぱーんっと大きな音が響いた。
「ほらっ、俯かないで。きちんと正面向いて立ち向かって。宮本さんの不祥事は主任のせいじゃない。宮本さん自身の罪」
「そうです、それと私の怪我は偶然の産物でそもそも私が運動音痴でバランスを崩しただけです。宮本さんが向田くんを私にとられるんじゃないかと焼きもちを焼いて突き飛ばしたって常務室の事情聴取でそう言ったそうです。だから主任は関係ありません」
私たち二人に怖い顔で睨まれて主任がほろ苦い笑顔を浮かべた。
「そっか、わかった。ありがとう」
「うん、わかってくれればいいのよ。さあお昼休み無くなっちゃうから食べましょう」
草刈先生の言うとおり昼休みの残り時間は多くない。
三人とも急いでお箸をとった。
「あれ、そういえば、今日大島さんのお弁当箱見たことないやつね」
ぎくり。
「あら、そういえば・・・それになんだかおかずもいつもと違うような?」
ぎくぎくっ。
「さ、さぁーさあさあ時間ありませんよう。午後は先生職場巡視ですよね。今日は企画部だから大変ですよ。あそこのフロアっていっつもくっしゃくしゃで改善命令大変ですよね。主任は部長と会議じゃなかったですか。時間ないですよーハヤク食べましょー」
「あらホント。急いで食べなくちゃ」
「そうね」
いつもならもっと鋭く突っ込まれるところをなんとか躱して大急ぎでお弁当をかき込むようにして食べた。
「主任はもうこのままあの変装メイクやめるかしらね」
草刈先生がぽつりと呟いた。
主任はお手洗いに行き、草刈先生は食後の缶コーヒーを飲んでいる。私はドクター用の休憩室内にある洗面台を借りて急いで歯磨きをしていた。
「そうですね。常務にも先生にもあれだけ言われたからやめると思うんですけど。主任のご主人次第ってことは無いんですか?」
「うーん。やっぱり問題はそれよね。聞いてないけど、常務が旦那にもガツンと言ってたらいいのにね」
「そうですよね~。私も問題は旦那さんにあるんだと思います」
「あっちも頑固って言うか思い込みが激しいから。奥さんに言い寄る男が増えるのが心配だから隠したいとかホントにアホかと思うわ」
「そんなですかーー」
「そう、そんななの」
主任のご主人のことをよく知っているらしい先生はぎりりっと悔しそうに飲み終わった缶を握りつぶした。
嫉妬深いというか心配性の旦那を持つとこんなに苦労するものなのか。
「お先でした」
歯磨きを終えた私は洗面台の前を空けて草刈先生に譲り歯磨きセットを持ってデスクに戻ろうと歩き出す。
「あ、そうだ。緒方君って料理上手なのね。今度私の分もお弁当を作ってって頼んでおいて~」
驚愕で目と口が大きく開いてしまった。
今日のお弁当、緒方さんに作ってもらっていたってどうしてバレたんだろうーー
「愛妻弁当ならぬ愛夫弁当?いいわね、うちの仲間じゃない。私も今度夫に頼んでその鮭の味噌焼き作ってもらおーっと」
ひいいいいー
恥ずかしくてダッシュでドクター用の休憩室から逃げ出した。
俯きため息をつく主任の背中を草刈先生が叩き周囲にぱーんっと大きな音が響いた。
「ほらっ、俯かないで。きちんと正面向いて立ち向かって。宮本さんの不祥事は主任のせいじゃない。宮本さん自身の罪」
「そうです、それと私の怪我は偶然の産物でそもそも私が運動音痴でバランスを崩しただけです。宮本さんが向田くんを私にとられるんじゃないかと焼きもちを焼いて突き飛ばしたって常務室の事情聴取でそう言ったそうです。だから主任は関係ありません」
私たち二人に怖い顔で睨まれて主任がほろ苦い笑顔を浮かべた。
「そっか、わかった。ありがとう」
「うん、わかってくれればいいのよ。さあお昼休み無くなっちゃうから食べましょう」
草刈先生の言うとおり昼休みの残り時間は多くない。
三人とも急いでお箸をとった。
「あれ、そういえば、今日大島さんのお弁当箱見たことないやつね」
ぎくり。
「あら、そういえば・・・それになんだかおかずもいつもと違うような?」
ぎくぎくっ。
「さ、さぁーさあさあ時間ありませんよう。午後は先生職場巡視ですよね。今日は企画部だから大変ですよ。あそこのフロアっていっつもくっしゃくしゃで改善命令大変ですよね。主任は部長と会議じゃなかったですか。時間ないですよーハヤク食べましょー」
「あらホント。急いで食べなくちゃ」
「そうね」
いつもならもっと鋭く突っ込まれるところをなんとか躱して大急ぎでお弁当をかき込むようにして食べた。
「主任はもうこのままあの変装メイクやめるかしらね」
草刈先生がぽつりと呟いた。
主任はお手洗いに行き、草刈先生は食後の缶コーヒーを飲んでいる。私はドクター用の休憩室内にある洗面台を借りて急いで歯磨きをしていた。
「そうですね。常務にも先生にもあれだけ言われたからやめると思うんですけど。主任のご主人次第ってことは無いんですか?」
「うーん。やっぱり問題はそれよね。聞いてないけど、常務が旦那にもガツンと言ってたらいいのにね」
「そうですよね~。私も問題は旦那さんにあるんだと思います」
「あっちも頑固って言うか思い込みが激しいから。奥さんに言い寄る男が増えるのが心配だから隠したいとかホントにアホかと思うわ」
「そんなですかーー」
「そう、そんななの」
主任のご主人のことをよく知っているらしい先生はぎりりっと悔しそうに飲み終わった缶を握りつぶした。
嫉妬深いというか心配性の旦那を持つとこんなに苦労するものなのか。
「お先でした」
歯磨きを終えた私は洗面台の前を空けて草刈先生に譲り歯磨きセットを持ってデスクに戻ろうと歩き出す。
「あ、そうだ。緒方君って料理上手なのね。今度私の分もお弁当を作ってって頼んでおいて~」
驚愕で目と口が大きく開いてしまった。
今日のお弁当、緒方さんに作ってもらっていたってどうしてバレたんだろうーー
「愛妻弁当ならぬ愛夫弁当?いいわね、うちの仲間じゃない。私も今度夫に頼んでその鮭の味噌焼き作ってもらおーっと」
ひいいいいー
恥ずかしくてダッシュでドクター用の休憩室から逃げ出した。