シークレットの標的(ターゲット)
「緒方君っていえば、彼、一部の女性達から『シークレットさん』とか『シークレットキャラ』とかって呼ばれてるの知ってた?」

松平主任が面白そうににやにやと笑っている。

「なんですか、それ」

「ほら、緒方君ってほとんど海外にいて落ち着いて本社にいることって少ないし、どこの地域にどのくらい行っているのかさえ同じ部署の人でさえ教えてもらえないって感じで。おまけに本人はあの通りイケメンでしょ、すっかりレアキャラなワケよ」

「ああ、それで『シークレットキャラ』なのね」

草刈先生までにやにやとし始めた。
私だけ話がよく見えない。わかったような、わからないような。

「大島さん、乙女ゲームとか知らない?」

「残念ながら・・・」

「あら、仕方ないわねぇ」と松平主任が呆れたような顔をする。

もしかして松平主任も草刈先生も乙女ゲーム経験者?
それってもしかして、ドラ○エみたいに経験すべきものとして私の知らないうちにジャンルが確立しているんですか?
嗜みとしてやっておくべきもの?


「アクロスの独身御三家が崩壊したって言ったのは大島さんよね。うちの会社の女性陣にとっての攻略対象者が御三家だとするとーーーわかるでしょ。乙女ゲームは自分がヒロインになって攻略していくんだけど、実際そんなことできるわけないから妄想でしかないけど」

松平主任の解説にふむふむと頷く私。

「攻略対象の他に登場するのが『隠しキャラ』とか『シークレットキャラ』って存在なのよね」

「それが緒方さんですか?」

「まあそういうこと。中々出会えないレアな存在のイケメンってすごいわよね。乙女心をくすぐるっていうか」

「緒方君はシークレットとしても憧れの存在なのよ」

ふふふふふと松平主任と草刈先生が可愛らしく笑った。

レアキャラの緒方さんはみんなの次のターゲットなのか、癒やしなのか。
その辺りのことは私には理解不能だけど、これはもう小池さんがどうこうって話ではない。

女子社員を敵に回したくないのなら彼とは関わり合いにならない方がいいと理解した。

「てっきり松平主任は小池さんの一件の話をしたくて私をお昼に誘ったんだと思いましたけど、違うんですか」

「違うわよ。元々小池さんが私のこと鬱陶しいって思ってることはわかってるし。勝手にファイルを触られたのはあまり気分がいいもんじゃないけれど、極秘ってワケじゃないものだったしね。今日はたまには三人でお昼もいいかと思って誘っただけよ」

そうなんだ。勝手に私が深読みしただけって事か。

「ただ、大島さんに結婚の予定があるか聞きたかったって事情もあったけどね」
「結婚ですか?」
「そうよ。あの結婚ラッシュの波に乗って大島さんにいきなり結婚退職しますなんて言われたら困るからね」

ああ、そういうこと。
確かに医療職の私に急に退職されたら次の補充は大変かもしれない。
病院勤務のナースと違って産業ナースの経験者は多くない。病院からの転職者では社員教育に時間がかかるだろう。

「大丈夫ですよ。そんな予定は微塵もありませんから」

胸を張って言ってしまってから、ちょっと寂しくなってしまった。
恋愛を避けているわけではないのだけれど、どうにも出会いがないーーー
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