シークレットの標的(ターゲット)


今日もまったり緒方さんちでお酒を飲んでいる。

谷口さんに選んでもらった部屋着とか基礎化粧品とかお泊まりセットがこんなに役に立つとは恐ろしい。

先週の土曜は朝から緒方さんの車で海がある地域にドライブに出掛け現地で海産物を食べ購入もして帰ってきた。
翌日は買ってきたものでペスカトーレを作り美味しくいただいた。

今週はお互いに忙しく平日は一日も会えず、週末の夜こうして二人でおとなしく夜を過ごしている。

夕食後、リビングのソファーに隣り合って座り私はちびちびとチューハイを飲みながらテレビを観て緒方さんは水割りを飲みながら仕事の資料に目を通している。

最近シークレットな業務から外れたという緒方さん。
私がいてもパソコンを使うし、こうやって仕事の資料を見たりもする。

「あふっ」と隣からあくびが聞こえた。

「眠いんでしょ。今週は忙しかったんでしょ、もう寝よっか?」

「ああそうだな」と大きく伸びをして凝り固まったらしい肩と首を回している。

「先週は運転もしてもらったし疲れたよね。上半身揉んであげよっか」
「いいのか?」
「もちろん。わたし結構うまいのよ」

子どものころは両親のを、学生時代は友達同士で揉んでいて好評を得ていたし理学療法士の友人にレクチャーを受けたこともあるので腕前には自信があった。

「ベッドでいい?」
リビングのフローリングに寝転んでもらうのも痛いだろうからと二人で寝室に移動した。
二人でベッドの上に乗るとちょっとドキドキ。

全然そんな雰囲気はないんだけど。
わたしが勝手にドキドキしているだけで、緒方さんはまたあくびをしながら目の周りを押さえたりしている。
そうか、目も疲れているんだ。

「まずうつ伏せで寝て。肩甲骨の周りと肩をほぐすから」

うつ伏せにさせて首から肩、腰まで軽く触れて状態を確認。
うん、ずいぶんと張っている。
これでは凝って痛いだろう。

「じゃあ揉んでいくね。痛かったら言って」

そしてぎゅっぎゅっと揉み込んでいく。

うっ、んー、んんっ、あーっと緒方さんの口から声が漏れる。

「ここもすっごく凝ってるね」

ぐりぐりと揉みほぐすと「ああー効くーーくううーーー」っと快感を伝える声が出てわたしはほくそ笑む。

これだけ凝ってたらそりゃあ声が出るってもんだ。
声が出てしまうくらい気持ちがいいのなら揉み甲斐もある。もっと声を出していいんだぞーっとばかり、痛キモチいいツボを責めていく。

初めは痛みで声を出していた緒方さんもほぐれはじめると「あーーーすげぇ。マッサージうまいなあ。はあーーー」と気持ちよさそうな声に変わっていった。

Sっ気があるわたしはたまに痛いツボをグッと押して緒方さんに変な声を出させて楽しみ、緒方さんをからかったりしたのだけど。えへ。

次第に口数が減り、身体が緩んだなと思ったらそれは寝息に変わっていた。
疲れているんだよね。
眉間のしわはさっきよりはかなりいいけど。

このまま眠っていいんだよ。
彼の穏やかな寝息にこちらまで気持ちが穏やかになる。

彼の寝顔を見るのはこれで3回目。

海外出張がなくなったとはいえ、会社側から期待されている彼が忙しくないはずがない。
それなのに、平日の何日かと週末をわたしと過ごすためにやりくりしてくれているのはわかっていた。
それに、わたしがここに泊まるときには彼の寝床はリビングのソファー。
疲れがとれるはずなんてない。

わたし、緒方さんの負担になってるんじゃないだろうか。

気持ちよさそうな寝息を立てる彼の髪をそっと撫でてみる。

思ったよりも柔らかくてさらさらだ。
何度か梳くように撫で、彼にダウンケットをかけると電気を消してそっと寝室を出た。

今夜はわたしがソファーの番。
彼よりも一回り以上小柄なわたしにはここの家のソファーはかなり快適ですぐに眠りについた。
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