シークレットの標的(ターゲット)
「メアリー?どうして望海がメアリーのこと知ってる」

ぱしっと私の手首を緒方さんが掴んだ。

「知らないわよ、メアリーさんの事なんて。あなたが言ったんでしょ。帰るからその手を放して」

「あー、ちょっと待って。ううんっと、ごめん。寝起きで理解が追いつかないんだけど、俺がメアリーの話を望海にしたんだな。で、なぜそれで望海が怒って帰ることになるんだ」

「不誠実な男とは一緒にいたくないのよ」

はあっとため息を落とすと「ちょっと落ち着こうか」と手を引かれる。振り払うことも出来たけど、それはせずに素直に従った。
自分でもかーっとして頭に血が上り勢いで動いた自覚がある。

私をリビングのソファーに座らせると、リビングの棚に置かれたスマホを持ってきて私の隣に座った。

「望海にメアリーを紹介するよ。って言っても写真を見せるだけだけど」

その言葉にむっとする。
いくら海外の人だからといって私は1人の男性を誰かと共有するような考え方は出来ない。

「ちょっと待ってーーーああ、この辺にあるかーー」
スマホを操作して保存された写真フォルダーからメアリーの姿を探している。
ああ、ほんっとにムカムカする。
胃袋から溶かして優しく甘えさせて人をその気にさせて。
なんてひどい男だろう。

愛するメアリーの写真を探している緒方さんを無視するように顔を背けて窓の外を見る。
晴天ではなく、ちょっと薄曇り。
でも雨予報はなくて外のイベントに参加するには暑くなくてちょうどよかったかもしれないのに。

昨夜まではこんなことになるとは思っていなかった。
好きだっていってくれたのは嘘じゃなかっただろうけど、他にも女性がいるとは聞いていない。

今後誰かとお付き合いすることがあれば、まず”私だけですか?”と確認することからはじめないと。

緒方さん、いい人だと思ってたのにがっかりーーーー
救いは二人の関係がキスもしていないことだろうか。

出会ってすぐにキスマークを付ける関係になったことは置いといて。
このようにお互いの意思で一緒に過ごすし、お泊まりもする関係でもあるけれど、キスはおろかハグもしたことがない。
だから余計にこのままでいいのかなんて不安に思っていたのだけど。

身体の繋がりは向こうにメアリーさんがいるからいいのかーーー
隣に座る緒方さんに気が付かれないように心の中で大きなため息をついた。

「ああ、やっとみつけた。ほら、見ろよ、これがメアリー」

顔を背けた私の目の前にぐいっと差し出されたスマホの画面。

そこに写っていたのはーーー笑顔の中年のアジア系男女の姿。

「彼女がメアリーさん・・・」

笑顔はとても素敵だけど、結構年上に見える。それに隣に写っている同じく笑顔の男性は・・・彼女のパートナーじゃないのかな。ずいぶんとふたり仲が良さそうに見えるけど。

緒方さんが年上好みとは知らなかった。

「向こうにいたときはしょっちゅうメアリーと寝ていたから寝ぼけたんだろう。ごめんな」

があーん。
わかっていたけど、本人の口から寝ていたなんて聞かされて衝撃に頭がくらっとする。二人で、それとも三人で寝ていたの。

おまけに
「巨乳好きだったのね・・・」
思わず呟いてしまい慌てて視線を避けた。

写真の中のメアリーさん、大層ご立派なお胸の持ち主だった。
だから寝ぼけた緒方さんが私の胸にすりすりふにふにとすり寄っていたのだろう。あんなにしつこかったのは私のではサイズ的にご不満だったからに違いない。

「は、何言ってんだーーああ、違うぞ。それは勘違いだ!」

緒方さんが大きな声を出したかと思うとなにやらスマホの画面を操作している。
そうしてまた私の目の前に画面を突き出してきた。

「メアリーはこっち」

画面にいたのは男女の膝の上にいたふさふさの尻尾を持った大きな大きな長い毛のネコーーーー

メアリー・・・。
お前かよ。

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