シークレットの標的(ターゲット)
途中でビールのお代わりを買いに行くという緒方さんに「一緒に行きたい」と主張するも却下された。

荷物の見張りをしておけということなのはわかる。
でも、モヤモヤする。緒方さんが1人で歩いたらきっとまた女の子に声を掛けられる。

「ちょっと待ってろ、すぐ戻るから」

立ち上がった緒方さんの声が聞こえたけれど、ぷいと無視してやる。

「望海」

仕方ないなというように緒方さんが私の手にあった飲みかけの紙コップを取り上げござの上に置いた。

連れて行ってくれるの?と期待に満ちた目で緒方さんの顔を見ると、目の前に黒い笑みを浮かべた緒方さんの顔。

ヤバいと思う暇もなく後頭部をがっちりと押さえ込まれて貪るようなキスをされる。
隙を突いて入ってきた舌を押し返そうとすると反対にキスが深くなり、こんな公の場で・・・と涙目になる。

長く感じたのは私の気のせいだったかもしれない。
だって外でこんなことされると思ってなかったんだもん。

唇を離した緒方さんは私の頬を軽く摘まむ。
「大丈夫、周りに家族連れがいないのは確認済み。顔を赤くした涙目の女性を連れてくわけには行かないから望海はここでお留守番な」

ずるい。
確かに今は出歩ける顔じゃないと思うけど。

「すぐに戻ってくるから」と緒方さんは行ってしまい、私は恥ずかしさに三角座りで顔を膝の中に埋めて隠した。

たぶん、緒方さんには私の不安が伝わっている。
緒方さんの事だからきっと部屋に戻ったら自分の膝の間に私を入れて懇々と不安を打ち消すように話をしてくれるのだろう。
そんなことくらいで不安が消えることはないだろうけど、それでもそれで気持ちが軽くなるのなら説得されたい。彼に甘えたい。

ズブズブの罠にかかった私にはこの先もう深みに嵌まるほかない。先に進もうと思ったら、このズブズブごとまとめて二人一緒に、それこそ1つの塊となって動くしかない。

危険だってわかっているのに抜け出せない。恐ろしや、シークレットさんのズブズブの罠。


「ほら、お待たせ」

緒方さんの言うとおり彼はすぐに戻ってきた。
私にはミントの葉が綺麗なモヒート。彼のはハイボールらしい。

「昼間だからアルコールは二杯までな」

よくわからないマイルール?によってこれが最後のお酒らしいのでありがたく頂戴する。
氷が入っている分ビールより冷えていてさっぱりだ。

「料理食べたらデザートだと思ってさ、これも買ってきた」

緒方さんがプラカップに入ったデザートを私に差し出してくる。

「うん、ありがと。ーーーこれは?」

「俺のオススメ」

カップの中にはアップルパイとバニラのアイス。
どこかで見たことがあるようなーーー。

「いいから食べてみろって」

早く早くと促されて口に運ぶと、何とも懐かしい味と香りがした。
シナモンが強めでお酒の味が強くて間にレーズンとダークチェリーが入っている。
アイスクリームに垂らされたソースはラズベリー。

「これ、どこのお店のものなの」

窺うように緒方さんを見つめる。

「来月オープンするイタリア料理の店。今回ここには腕試しでデザートだけ出品してるらしい」

「そう・・・。」

もう一度口に入れて味わってから緒方さんに渡した。

「もういいのか?」
「うん。緒方さんも食べてみて」

口に入れた緒方さんが一言「うまいな」と言う。そうだねと私は空返事をした。

「好評で残り僅かだったんだ。買えてよかっただろ」
そうねと返事をするもののこのアップルパイの味の方が気になっていた。


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