シークレットの標的(ターゲット)
おとなしい私に緒方さんは調子に乗って髪や耳にキスしたり、指先を絡めたりとやりたい放題。
ただ困ったことに彼にされるそれがいやじゃない。
飼い慣らされたというか、ただ単に考えることを心身が拒否しているのか。
夜にかけての時間を彼の部屋でゆったりと映画を観て過ごす。
わたしの頭の中は相変わらず考えることを拒否していて、映画の内容も頭には入っていなかったけれど、逃避するにはもってこいの状況だった。
両親の店が閉店することとか、店でわたしの味に似たアップルパイが提供されていたこととかだけでなく、モテる緒方さんに群がる女性たちのこととかーーとりあえず棚上げして今は考えたくない。
中途半端に映像を眺め、映画に集中しているふりをする。
話しかけられたら余分なことを口にしてしまいそうで、口は閉じておく。
緒方さんも私がおとなしくされるがままになっているのがよかったのか、表面上機嫌はいいようだった。
お昼ご飯をたっぷり食べたことで軽めにした夕食を一緒に作って食べた後、チラリと時計を見る。
「じゃあそろそろ帰るね」
さすがに明日は会社だし。これ以上遅くなるのはどうかと思う。
「は?」
「え?」
着替えに行こうとしたわたしの腕を不機嫌そうな顔をした緒方さんが掴む。
こっちもなぜ彼が不機嫌になるのかわからず首を傾げる。
「なに帰ろうとしてんだよ」
「いや、明日会社だし。帰るよね?普通」
「いや、帰らねえだろ、普通」
え、あれ?”普通”ってなんだろう。
思わず斜め上に視線を向け考えてしまう。日曜の夜に自分の部屋に帰ることは普通なんじゃないのかな。
「明日、会社だよ」
「俺もだけど?」
ええ、ええ、そうですよね。
明日は月曜日、基本的に皆出勤のはずです。
「同じところに出勤するんだから、ここから一緒に行けばいいだろ」
朝一緒に出勤しろと?
ムリ無理。むりむりむり。
このオトコ、なんてことを言うんだろうと目を細めてやる。
怪我をしていた時は毎日車で送迎してもらっていたし、週末に何度かここにお泊まりもしていたけれど、それは土曜の夜だったからで翌日の出勤はなかった。
恋人になったからといって今日このまま泊まって明日一緒に出勤が当たり前みたいな雰囲気出すのは違うから。
タヌキ常務の配慮で会社の地下駐車場の使用許可があったころとは状況が違う。
月曜の朝から2人で肩を並べて電車で出勤とかあり得ない。そんなことしたら周囲からどんな目で見られるか。
彼は人目を引く存在のあのシークレットさんなのだ。
餌付けして飼い慣らしたと思われているのなら心外だ。
「本当に無理だから。帰る一択」
「人目とか今更だろ。今までだってあれだけ社内で接触して噂になっていたんだし」
「やっぱりわざとだったのね」
うんうん、そうじゃないかと思ってたけど。やっぱりって感じ。
外堀がっちり埋めるタイプだものね。
「譲らないよ。今夜は帰るから」
強い意志を持って言い切ると緒方さんはチッと舌打ちをした。
「わかったよ。仕方ないな」
渋々といった様子で腰を上げると、一緒にマンションを出て大通りでタクシーを拾ってくれた。
緒方さんにしてはあっさり引いてくれたと思う。もっとごねてくると思ったから。まあ表情からは不満たっぷりって様子が表れてるから彼も我慢してくれたのだろう。
ただ困ったことに彼にされるそれがいやじゃない。
飼い慣らされたというか、ただ単に考えることを心身が拒否しているのか。
夜にかけての時間を彼の部屋でゆったりと映画を観て過ごす。
わたしの頭の中は相変わらず考えることを拒否していて、映画の内容も頭には入っていなかったけれど、逃避するにはもってこいの状況だった。
両親の店が閉店することとか、店でわたしの味に似たアップルパイが提供されていたこととかだけでなく、モテる緒方さんに群がる女性たちのこととかーーとりあえず棚上げして今は考えたくない。
中途半端に映像を眺め、映画に集中しているふりをする。
話しかけられたら余分なことを口にしてしまいそうで、口は閉じておく。
緒方さんも私がおとなしくされるがままになっているのがよかったのか、表面上機嫌はいいようだった。
お昼ご飯をたっぷり食べたことで軽めにした夕食を一緒に作って食べた後、チラリと時計を見る。
「じゃあそろそろ帰るね」
さすがに明日は会社だし。これ以上遅くなるのはどうかと思う。
「は?」
「え?」
着替えに行こうとしたわたしの腕を不機嫌そうな顔をした緒方さんが掴む。
こっちもなぜ彼が不機嫌になるのかわからず首を傾げる。
「なに帰ろうとしてんだよ」
「いや、明日会社だし。帰るよね?普通」
「いや、帰らねえだろ、普通」
え、あれ?”普通”ってなんだろう。
思わず斜め上に視線を向け考えてしまう。日曜の夜に自分の部屋に帰ることは普通なんじゃないのかな。
「明日、会社だよ」
「俺もだけど?」
ええ、ええ、そうですよね。
明日は月曜日、基本的に皆出勤のはずです。
「同じところに出勤するんだから、ここから一緒に行けばいいだろ」
朝一緒に出勤しろと?
ムリ無理。むりむりむり。
このオトコ、なんてことを言うんだろうと目を細めてやる。
怪我をしていた時は毎日車で送迎してもらっていたし、週末に何度かここにお泊まりもしていたけれど、それは土曜の夜だったからで翌日の出勤はなかった。
恋人になったからといって今日このまま泊まって明日一緒に出勤が当たり前みたいな雰囲気出すのは違うから。
タヌキ常務の配慮で会社の地下駐車場の使用許可があったころとは状況が違う。
月曜の朝から2人で肩を並べて電車で出勤とかあり得ない。そんなことしたら周囲からどんな目で見られるか。
彼は人目を引く存在のあのシークレットさんなのだ。
餌付けして飼い慣らしたと思われているのなら心外だ。
「本当に無理だから。帰る一択」
「人目とか今更だろ。今までだってあれだけ社内で接触して噂になっていたんだし」
「やっぱりわざとだったのね」
うんうん、そうじゃないかと思ってたけど。やっぱりって感じ。
外堀がっちり埋めるタイプだものね。
「譲らないよ。今夜は帰るから」
強い意志を持って言い切ると緒方さんはチッと舌打ちをした。
「わかったよ。仕方ないな」
渋々といった様子で腰を上げると、一緒にマンションを出て大通りでタクシーを拾ってくれた。
緒方さんにしてはあっさり引いてくれたと思う。もっとごねてくると思ったから。まあ表情からは不満たっぷりって様子が表れてるから彼も我慢してくれたのだろう。