シークレットの標的(ターゲット)
「またね。おやすみなさい」

「部屋に戻ったら電話しろよ」

「うん、わかった」

じゃあねと軽く手を振り合うとタクシーが静かに走り出す。

おやすみのキスは部屋を出る前にしてきた。
離れることが寂しいと思う反面、やはり疲れていた。

緒方さんと離れ1人になった車の中で小さく息を吐きだした。


車内のラジオからは聞いたことがある曲が流れている。
ちょっと昔に流行っていたから何度も耳にしていたけれど、特に歌詞に注目したことはなかった。

彼女は彼を信じ切れずすれ違いから別れてしまったけれど、何年経っても彼のことが忘れられない。
彼は彼女のことを思い陰日向に支え尽くしてくれたのに、彼女がそれに気が付いたのは彼が去ってしまったあとだった。

なにこれ、とてもポップな明るい曲調だったからてっきり恋人同士の幸せな恋愛を歌った曲だと思っていたんだけど、よく聞いたらとんでもない正反対の内容だったわ。

きちんと聞いていないととんでもない誤解が生まれてしまうのね。
表面の印象と本質は全く違うとか。


ーーー私は緒方さんの本質をわかっているかな。緒方さんも私の本質はわかっていないだろう。

ここ暫く友人として近くで過ごしてわかったのは、会社で見せるシークレットさんとして呼ばれている緒方さんの顔とプライベートで私と過ごす緒方さんの顔が違うってこと。

だけど、私がプライベートで見ている緒方さんが本当の緒方さんとは限らない。底が知れないというか。
彼にはまだ何かあるような気がしてならない。

私から見た彼は眩しすぎる存在なのだ。
グッドルッキングだからというだけではない。



わたし、緒方さんと恋人なんて関係になって本当に大丈夫なのかな。友達のままでいたほうがよかったんじゃーーー

急に不安になってきた。

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