シークレットの標的(ターゲット)


緒方さんの仕事が忙しく会うこともなく社内ですれ違うこともなく5日が経過していた。
タイミング悪く緒方さんに木曜から出張が入り帰ってくるのは日曜の夜になるという。だから月曜の仕事の後に会う約束をし私はこの1週間近くを1人で過ごすことになっていた。

以前はこれが当たり前だったのに何だか落ち着かない。
これがズブズブの弊害。

時間だけはあったから、地元の友達であるなっちゃんに連絡を取った。

なっちゃんは私と両親との関係を知っている友人で昔はよく愚痴を聞いてもらったものだ。

「え、おじさんたちあのお店辞めちゃうの?内装とか古くなってきたから改装するって思ってたんだけど」となっちゃんも驚いていた。

それから調べてくれたなっちゃんの話によると、店に閉店のお知らせはなどはなく店名変更とリニューアルすると公にされているらしい。

追加報告と言うことでまたなっちゃんから電話がかかってきた。

「今月いっぱいで一旦お休みにして店舗の改装作業に入って、来月末にはお弟子さんがはじめるみたいね」

「そっか。で、実家の住宅の方も見てきてくれた?」

「うん。でも、そっちは何の工事もしてる様子はなかったよ。ホントにそこで蕎麦屋をやるって?」

「うーん、私が聞いたわけじゃないから何とも。だからなっちゃんに見てきてって頼んだんだよ」

どうやら住居のほうでは工事が行われているわけではないらしい。けれど、店を剣さんに譲るのは間違いない。

「おじさんが辞めちゃう前に食べに行かなきゃ。来週に彼と行くつもりだけど、・・・のんちゃんも一緒にどうかな」

「気を遣ってくれてありがと。でもなっちゃんと婚約者さんとの間に入る勇気がないんですけど。めちゃめちゃいちゃいちゃしてそう」

「ふふっ。いちゃいちゃしてるのは否定できないけど、のんちゃんも一緒なら少しは手加減するから。ね、一緒に行かない?」

親友の気遣いだけをありがたく受け取り「まだ気持ちの整理がつかないの」と言うとなっちゃんはそれ以上誘ってこなかった。
ただ、行きたくなったらいつでも付き合うからねと言ってくれた。
ホントになっちゃんはいい人だ。


剣さん夫婦も閉店前に顔を出して欲しいって言ってたなと思い出してしまった。会いに行きたくないって意地になってる私が悪い人みたいだとため息が出る。

憂うつな気分で1人の部屋でサーモンのマリネをつまみにワインを開けた。

あれからずっとモヤモヤしてる。
両親のことも緒方さんのことも。

自分がどうしていいのか、どうしたいのか、どうすべきなのか。
ずっとモヤモヤ。

今までだって悩むことはたくさんあったのに、今回は特に気持ちが落ち着かず気分が安定しない。

私ってこんな人間だっけ。


ーーー緒方さんに会いたいなぁ



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