シークレットの標的(ターゲット)
「はい、お疲れ様。どうぞ」
自分の飲みかけのビールを持ち上げ、乾杯すると緒方さんは結構な勢いでビールを飲み込んでいく。ごくごくと動く喉仏が妙に色っぽくて照れくさくなり目をそらした。
「一日早く会えて嬉しいけど、帰宅が早くなったなら連絡してくれれば夕食の準備をしておいたのに。何か予定変更?」
相当喉が乾いていたのか飲み干しそうな勢いでビールを飲んでいた緒方さんもやっと落ちついたらしくはあっと大きく息を吐いた。
「ああ、さすがに疲れた。少しでも早く帰ろうと思って睡眠時間を犠牲にして仕事を片付けて新幹線に飛び乗ったんだ。新幹線に乗った途端眠りに落ちたよ」
それで疲れた様子なのか。
納得したけど、睡眠時間を犠牲にしてまで帰りたかった理由はなんだろう。
急いで帰らなきゃいけない用事が出来たってこと?だとしたら明日の夜に会うはずだった私との約束は無しになるのかな。今日こうして会えたし。
「忙しくて大変ね。ここに来て大丈夫だったの?明日の用事は何時から?」
「は?」
緒方さんの目が丸くなった。何を言っているんだと非難するような気配がするのは気のせいだろうか。
「だって、明日何か予定が出来たから早く帰ってきたんじゃないの?」
首を傾げる私に緒方さんの目が細くなる。
「・・・・・・昨日の夜遅くにタヌキから連絡が来たんだよ。秘書課預かりになってる雀が公表前の俺の転勤情報を吹聴していてお前が相当傷ついているって」
えっと今度は私が目を丸くする番だった。
「確かに夜望海から電話をもらったときに様子が変だと思ってはいたんだ。だからタヌキに言われて納得してしまった」
「あーーー、確かに気になって電話しちゃったんだけど、緒方さんが了承している話かどうかの判断がつかないから帰ってきたら聞けばいいかと思い直して聞かなかったのよね」
「でも、地球の裏側に独身女子社員と二人で赴任するって聞いたら気分よくないだろ」
「は?」
何それ、聞いてないんですけど?
「独身女子社員と二人?地球の裏側ってどこ?!海外なんて聞いてない。いつ、誰とどこに行くのっ」
「は?」
血相を変えた私に緒方さんが遅れて行き違いに気が付いたらしい。
「くそ、またやられたか。あの腐れタヌキが」
眉間に大きなしわを作りチッと舌打ちをした緒方さんに私も何かを感じる。
「ええーっと、緒方さんは常務にからかわれたってことでいいのかな?」
緒方さんは「ああああー」とか「があああー」とか奇声を発しながら髪をぐしゃぐしゃとかきむしっている。
「くっそー、くそ、くそっ」と繰り返しているから相当悔しいらしい。
「・・・・・・緒方さんは常務からちょっと歪んだ連絡をもらったのね。じゃあ私に連絡してくれたらよかったのに」
「松平主任と常務秘書と女子会して誤解を解いているから下手に連絡して邪魔をするなと言われたんだよ。こっちは大物女子二人に任せれば大丈夫だから、そんなことより早く仕事を終わらせて一刻も早く東京に帰って来いって、さ」
なんとまあ。
そんなにからかわれるなんて常務に気に入られているからなのか、おもちゃにされているのか、ーー考えたくないけど嫌われているのか。
自分の飲みかけのビールを持ち上げ、乾杯すると緒方さんは結構な勢いでビールを飲み込んでいく。ごくごくと動く喉仏が妙に色っぽくて照れくさくなり目をそらした。
「一日早く会えて嬉しいけど、帰宅が早くなったなら連絡してくれれば夕食の準備をしておいたのに。何か予定変更?」
相当喉が乾いていたのか飲み干しそうな勢いでビールを飲んでいた緒方さんもやっと落ちついたらしくはあっと大きく息を吐いた。
「ああ、さすがに疲れた。少しでも早く帰ろうと思って睡眠時間を犠牲にして仕事を片付けて新幹線に飛び乗ったんだ。新幹線に乗った途端眠りに落ちたよ」
それで疲れた様子なのか。
納得したけど、睡眠時間を犠牲にしてまで帰りたかった理由はなんだろう。
急いで帰らなきゃいけない用事が出来たってこと?だとしたら明日の夜に会うはずだった私との約束は無しになるのかな。今日こうして会えたし。
「忙しくて大変ね。ここに来て大丈夫だったの?明日の用事は何時から?」
「は?」
緒方さんの目が丸くなった。何を言っているんだと非難するような気配がするのは気のせいだろうか。
「だって、明日何か予定が出来たから早く帰ってきたんじゃないの?」
首を傾げる私に緒方さんの目が細くなる。
「・・・・・・昨日の夜遅くにタヌキから連絡が来たんだよ。秘書課預かりになってる雀が公表前の俺の転勤情報を吹聴していてお前が相当傷ついているって」
えっと今度は私が目を丸くする番だった。
「確かに夜望海から電話をもらったときに様子が変だと思ってはいたんだ。だからタヌキに言われて納得してしまった」
「あーーー、確かに気になって電話しちゃったんだけど、緒方さんが了承している話かどうかの判断がつかないから帰ってきたら聞けばいいかと思い直して聞かなかったのよね」
「でも、地球の裏側に独身女子社員と二人で赴任するって聞いたら気分よくないだろ」
「は?」
何それ、聞いてないんですけど?
「独身女子社員と二人?地球の裏側ってどこ?!海外なんて聞いてない。いつ、誰とどこに行くのっ」
「は?」
血相を変えた私に緒方さんが遅れて行き違いに気が付いたらしい。
「くそ、またやられたか。あの腐れタヌキが」
眉間に大きなしわを作りチッと舌打ちをした緒方さんに私も何かを感じる。
「ええーっと、緒方さんは常務にからかわれたってことでいいのかな?」
緒方さんは「ああああー」とか「があああー」とか奇声を発しながら髪をぐしゃぐしゃとかきむしっている。
「くっそー、くそ、くそっ」と繰り返しているから相当悔しいらしい。
「・・・・・・緒方さんは常務からちょっと歪んだ連絡をもらったのね。じゃあ私に連絡してくれたらよかったのに」
「松平主任と常務秘書と女子会して誤解を解いているから下手に連絡して邪魔をするなと言われたんだよ。こっちは大物女子二人に任せれば大丈夫だから、そんなことより早く仕事を終わらせて一刻も早く東京に帰って来いって、さ」
なんとまあ。
そんなにからかわれるなんて常務に気に入られているからなのか、おもちゃにされているのか、ーー考えたくないけど嫌われているのか。