シークレットの標的(ターゲット)
せめて二人分のお茶碗の洗い上げくらいは、とやらせてもらい、またソファーに戻った。

私の前にはチョコレートケーキと・・・赤ワイン。

ワインはこのケーキとセットでもらったものらしい。
と言うことはさぞかし味がマッチングするのだろう。

「嫌ならコーヒーでも淹れるが」

「いいえ、いただきます」
意地汚いと思われようが、この組み合わせに興味が出てどうしても味わってみたくなった。

緒方さんは笑顔になり「じゃあ乾杯」と私のグラスに軽くグラスを当てた。

さっきよりも笑顔が深くなっているような気がするけれど、やっぱり気のせいかな。
緒方さんの笑顔を見るのが初めてだからかもしれないし、イケメンだから笑顔が素敵に見えるだけかも。

緒方さんは思ってたより話が合うし、聞き上手でもある。
ここにきたばかりの時に感じた気まずい空気はもうどこにもない。



ーーー結果、赤ワインとチョコレートケーキは素晴らしいマリアージュだった。







・・・喉が渇いた。
昨日の飲み過ぎで頭が重いし、身体もだるい。

いつも抱き枕にしている黒豚ちゃんのぬいぐるみをたぐり寄せようとして違和感に気がついた。

黒豚ちゃんがいない。
シーツの肌触りが違う。

ーーーまさか。

恐る恐る目を開けて自分の隣を見る。

うわあっ。
しでかしたっ!

そこにはいてはならない人がいた。
寝顔も整っていて少し乱れた髪が新鮮だ、ってそういう事じゃない。
ここはおそらく緒方さんの寝室で、いてはいけないのは私の方だ。
ダブルベッドの右と左に彼と私。

・・・
昨日、赤ワインを飲んでる途中からの記憶が無い。

おいしい赤ワインに二人で盛り上がり、緒方さんは自分に集まってくる女性の愚痴を、私は実家の愚痴をこぼしたりしてまた酒盛りを…。


おそるおそる布団をめくって自分の姿を見る。
裸ではなかったことに安堵したけれど、着ていた服は脱いでいて知らないスウェットを着ている・・・。

これはーーー
アウトなの?セーフなの?

わたし緒方さんのこと食べてないよね?
緒方さんのこと性欲がどうのって言っておいて、そんなことになっていたらしゃれにならない。

どうしよう。
いたしてないよね。
いや、やった?やってない?

ああ・・・赤ワインなんて飲むんじゃなかった。

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