シークレットの標的(ターゲット)
で、どうしよう。
ドラマみたいにお相手が寝ているうちに着替えて逃げるってわけにもいかないし。
とりあえず起きて昨日私が来ていた服を探すか。

私がもぞもぞと動いた気配のためか緒方さんが「うーん」と声を出した。
半身起こした状態で緒方さんの方をと見ると、薄目を開けた彼と視線が合う。

まだ寝ぼけているのか瞳に力は無く、ふにゃりと笑みを浮かべると、わたしの腰に両手を回し、ぐいと自分の方に引き寄せてきてまた目を閉じた。

きゃっ。
さすがに男性の力に敵うはずもなく緒方さんに抱き寄せられてしまい身体を起こしていたわたしはそのままボスンっと緒方さんの身体の上に倒れ込むようにして抱きしめられてしまった。
おまけにちょうど私の胸が緒方さんの顔に。ひいいい~。

寝ぼけてる、この人、寝ぼけてる。助けて。

しがみつかれているのは私だけど、私が上になっているから知らない人が見たら私が襲っているように見えるって状況じゃないの。
もちろん、誰かに見られるような事はないだろうけど。

…ふに

私の背中に両手を回した緒方さんの顔が当たったのはまたもや私の胸。

ぎゃー
声にならない悲鳴を心の中で上げ抜け出そうともがくとますます抱きしめられる。
このひと、抱き枕と勘違いしてないかなっ。

どうしよう。ぐいぐいと腕を突っ張っても抜け出せない。
騒がず静かに離れたかったけど、起こさないとダメみたい。

「お、緒方さん、起きてください。寝ぼけてますよ」
声を掛けたけれど、んーとか声を出してもまた寝息に変わってしまう。

再びのふに、ふに、ふに

ひいっ。もう無理っ
度重なる頬擦りに我慢の限界が来てしまい、反射的に目の前にあった緒方さんの肩にかぷりと噛みついてしまった。

「いてっ」

私を抱きしめる力が弱まったところで素早く抜け出し、ざざざっと後ずさったところで緒方さんの目が開いた。
今度はしっかり目が覚めたらしい。

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