シークレットの標的(ターゲット)
「あれ、どうした、そんなとこで」

この人、やっぱり寝ぼけてたらしい。
だったら胸に頬擦りされたことは触れなくてもいいかな。こっちも恥ずかしいし。
それよりもお泊まりしてしまったことの方が重大。

「・・・おはようございます。あの、昨夜のことですけど」

「ああ、赤ワイン旨かったよな。俺もすっかり飲みすぎた」

緒方さんは口角を持ち上げ笑みを浮かべた。
一見爽やかなんだけど、なんだか含みのある笑顔に嫌な予感がする。

「いえ、赤ワインもそうですけど、その後、その、あの、何かわたし緒方さんと・・・えーっと、その、淫らなことをイタシテしまったかーーってことなんですけど」

ドキドキしながら聞きにくいことを口にすると、体温が上昇してくる。
ああ恥ずかしい。耳まで熱い。

「ふーん、淫らなこと、ねぇ」

緒方さんの視線がわたしの頭の先から座り込んだ膝の辺りに移動する。
なんなの、そのちょっと色気みたいなのを含んだ視線。ぞわぞわと背筋が寒くなる。

「君は覚えてないってこと?」

「ええっと。赤ワインを飲んでる途中からの記憶が・・・ご迷惑をおかけしましたよね?」

伺うようにチラリと視線を向けると、緒方さんは飲酒後の寝起きでも整っている羨ましいほど端正なお顔に満面の笑みを浮かべ、いきなり着ていたTシャツを脱ぎだした。

「きゃー、な、な、ななんで脱ぐんですかあ」

医療従事者だから一般人より裸は見慣れているけど、プライベートな場所での裸は見慣れてませんっ!

「いや、何があったかは自分の目で確認した方がいいかと思ってさ」

確認?

「ほら、ここ」

上裸になった緒方さんが指さしたのは左の鎖骨の少し下。
歪に赤くなった2つの印

「ま、まさか???」

「そう、君がつけたキスマーク」

ぎゃー!!!!

し、しでかしてたっ。
わたしの顔は真っ赤から真っ青に変わる。

でも、もしかしたらキスしただけかも。

「あ、俺もつけちゃったかもしれない、ごめんね?でも、見えるとこにはつけてないから安心して」

えええ。
ぐるっと緒方さんから背を向け、着ていたスウェットの首元から覗き込んで固まった。
ブ、ブラしてない。

これはやっぱりしちゃったってこと?
ショーツははいているけれど、ブラはどこ?

「下着とブラウスは洗面所。スカートはそこ」

言われた方向を見るとクローゼットの取っ手にきちんとハンガーに掛けられたわたしのスカート。

「じゃあ、ちょちょちょっと失礼します」
スカートを持って寝室を飛び出して洗面所に向かった。

「キスマーク確認しろよ-」

わたしの背中に楽しそうな緒方さんの声が。

ホントにホント?
キスマークがあるの?

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