シークレットの標的(ターゲット)

洗面所の扉に付いた鍵をガチャリと閉めておそるおそる着ていたスウェットをめくって胸元を確認する。
・・・ないじゃん。
焦った。よかった、とりあえず無い。

からかわれたのかな。
だったらもしかしてシテないって可能性も・・・

洗濯機の上に畳まれたブラとキャミソール。
洗剤の香りもするから洗って乾燥機にかけてくれたらしい。
本当に何から何まで、居たたまれない・・・。

スウェットを脱いでブラジャーをつけたところでふと、洗面台の鏡を見て悲鳴を上げた。

胸じゃなくてお腹に赤い斑点がっ!

そのまま座り込んで頭を抱えたーーー
キスマークだけじゃなくて、動いてからわかったんだけど腰が痛い。

ーーー終わった。
これはクロだ、クロ。
やったわ。
しでかしてたわ。

なんてことをなんて人としてるんだ、私のばか。

そうだ、
今大丈夫な時期だっけ?前回の生理は・・・うん、たぶん大丈夫。

「おーい、着替えたんなら出てこいよ。コーヒー淹れたぞ」

扉の向こうから陽気な声がする。
何であの人はご機嫌なのかしら。性欲が満たされたからなんてゲスなことは考えたくないけれど。

お互い酔ってたとはいえ、なんてことしちゃったんだ・・・・。

手早く着替えてリビングに戻ると、コーヒーを飲みながら新聞を読むイケメンがいた。

「コーヒー、そこに置いたから。悪いけどミルクも砂糖もない。いいか」

「・・・大丈夫デス」

ちょっと目のやり場に困る。
やっぱり神々しい。
セットされていない自然なヘアスタイルに後頭部の髪がぴこんと跳ねているのですらマイナスポイントでなくプラスだ。
その抜け感すら輝いている。

で、恐れ多くもそんな人と淫らなことしちゃったのか、私は。

明らかに女性に不自由してない緒方さん。
迫ったのは酔った私なんだろう。

男性にキスマークなんか付けたりして。
今まで自分にはそんな性癖はなかったはずなんだけど、アルコールで完全に理性が飛んだのか。

あちらは据え膳食わぬはなんとやらの心情だったのだろうか、私みたいなレベルの女を抱くなんて。

当たり前だけど、香り高いコーヒーを頂いてもざわざわそわそわする気持ちは収まらず。
神々しい美形を前にして28の女がほぼスッピンという事態にもこれ以上精神的に耐えられない。
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