シークレットの標的(ターゲット)
やきもち・・・ではありません
翌朝、週末の記憶を封印していつものように出社した。
『シークレットなレアキャラ』なんて言われているのだし、今までも社内で会ったことがないのだから、たぶん大丈夫だろうと油断していた。
「おはよう」
駅から会社に向かう歩道で肩を叩かれ振り返って後悔。
「おはようございます・・・」
朝からレアキャラ登場・・・
「ずいぶん早いね」
キラキラした笑顔で話しかけてくる緒方さん。
きっちりとセットされた髪に高級そうなスーツを着こなしていて、さすがは新御三家のメンバー入りが噂されているだけのことはある。
昨日の朝は寝癖がついていたのに・・・
つい昨日のもろプライベートな寝ぼけた緒方さんの顔を思い出してしまい慌てて顔を背けた。
「出勤時に体調を崩して救護室を利用される社員さんもいるので、早く出勤して救護対応できるようにしているんです」
真っ直ぐ前を向いて歩きながら返事をする。
「へえ。救護室か。医療職も大変だな」
「いいえ、それほどでも」
あまり会話したくないので返事はあっさりと。
一晩過ごしたくらいでしつこく言い寄ったりしませんからご心配なく。
「そういえば、森山が昨日あれから俺の部屋に来たんだ。あのまま残っていたら会えたのに残念だったな」
言葉に微かなトゲを感じてちらりと隣を歩く緒方さんの顔を見た。
彼は真っ直ぐ前を見て歩いていてこちらを見てはいない。
「別に」
だから、私は別に森山君に下心なんてないんだから。
「仕方ないから君と一緒に行こうと思っていたメシ屋に森山を連れて行ったよ」
・・・返事に困る発言はやめてほしい。
「送るって言ったのに」
「大丈夫だってーーーい」言ったじゃないですかと言おうとして急に横から出てきた人影に驚いて言葉を止めた。
「緒方さんっ。おはようございますっ」
ああ、こんなタイミングで顔を会わせたくなかった。
今日も可愛らしい服装で瞳をキラキラさせた小池さん登場。
「あ、大島さんもおはようございます」
「おはようございます、小池さん」
よかった、私のこと見えてないかと思ったよ。
「・・・おはよう」
かろうじて声を出したというような挨拶をした緒方さんは見るからに不機嫌な様子になっている。
「緒方さん、今日のネクタイも素敵ですね」
「ーーああ」
私と緒方さんの間に入って歩き出す強心臓な小池さんと、褒められたのにろくな返事も返さない緒方さん。
こんなに拒絶されているのにめげないのはすごい。
小池さん、彼はもう無理だと思うんだけど。
「じゃあ、俺は急ぐから」
そう言って緒方さんは足早にエントランスに向かって行ってしまった。