シークレットの標的(ターゲット)
「緒方さんの通勤は電車じゃなくて車だから」

女性社員の一言にそんなこと知るかと言いそうになったけれど、咳払いをして飲み込んだ。

「でも、本当に今朝は駅から歩いている途中で出会ったんです」

えー、と非難するような目を向ける女性社員たち。
もう最悪だ。

「皆さん、今は勤務時間だからこのくらいにしてもらえる?納得いかないことがあるのなら早く健診を済ませて、フロアに戻って緒方さん本人に確認したらどうかしら」

草刈先生の提案に女性たちは顔を見合わせ頷きあっている。
そうそうそう。
本人に確認してください。

その場は何とか見せかけだけは収まり、健診を受けた女性たちは急いでフロアに戻っていった。
健診中の女性たちの冷たくチクチクした視線と態度はとっても辛かった。

そして、残る問題は小池さんなわけで。

小池さんも主任に促されとりあえずデスクに戻って仕事をしていた。
度々小池さんからの訝しげな視線を感じつつ何とか午前中はしのいだけれど。
昼休みになると、やはり小池さんが突進してきた。

「大島さん、緒方さんとはどういう関係なのかランチを食べながらゆっくり聞かせてもらえますよね」

ーーーうん、そう来るよね。
どこまで話すかと考えながらお財布とスマホを持って席を立った。

今朝は前日の精神的ダメージでお弁当を作る余裕がなく、どのみちお昼は社員食堂に行こうと思っていたのだ。
腹をくくって食堂に向かった。

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