シークレットの標的(ターゲット)
日替わり定食を手にちょうど空いていた窓側の二人席に着いた。

「今日の日替わりのお魚フライ美味しそうですよ」

肉厚なあじと白身魚のフライを見て小池さんはニコニコとしている。
想定外の態度にこちらの方が戸惑いを感じてしまう。もっと刺々しく追及されると思っていたから拍子抜けといえばまぁ拍子抜け。

「私、昔からヒトのものに手を出す趣味は無いんですよね。他人を傷つけ自分の気持ちを押しつけて手に入れる行為に抵抗があるもので」

お味噌汁を口にした後、それは始まった。

小池さんの口から出た言葉はとても意味深で、すぐには返事ができない。
話に聞く緒方さんへのアタックのしつこさはフリーとはいえ自分の気持ちを押しつける行為に当たらないのだろうか・・・。

「例えば、不倫。それから婚約者がいる人。それと、私は恋人がいる人もダメ。わりと潔癖なんです」

私もその意見に賛成だけれども。

「だから、緒方さんが大島さんのものなら金輪際手を出しません。で、どうなんですか。緒方さんと大島さんの関係は」

すっぱり真正面から聞かれて、固まった。

どうしよう。
付き合っていないと言うことは簡単だけど、だったらあの緒方さんの意味深な態度は何なのだと追求されるに違いない。
一晩だけの付き合いでしたなんて言えないし。

「緒方さんと私ってーー」

散々迷ってから口を開いた私の横に誰かが立った気配がして振り向くと、そこにはいてはいけない人がいた。

「今日は望海も社食だったんだな。教えてくれれば一緒に来たのに」

ひいい。また出た、緒方さん。

この人が来たらまた話がややこしくなるんじゃないんだろうか。
きちんとワイシャツのボタンを留め、ネクタイをしていることだけは安心したけれど。

「ここ、いい?」

「ええ、勿論です。どうぞどうぞ」

小池さんが笑顔で私の隣を指し示す。
私の了解はいらないらしく緒方さんは「ありがとう」と言いながら私の隣に座った。
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