シークレットの標的(ターゲット)
「緒方さんが社食を使うなんて珍しいですね」

「そうだね」

小池さんにそう言った後でなぜか私の顔を見る緒方さん。私たちの視線がしっかりと重なる。
え、何?と思った途端、再びとんでもない爆弾を落とされた。

「何となく望海が俺を呼んでいるような気がして」

は?
ぽかんとする私と対照的に「きゃ」っと小池さんが可愛らしい声を出した。

「いま、ちょうど大島さんに緒方さんとの関係を聞いていたところだったんですよ」

「俺と望海の?」

「そうです。名前呼びしてるし、もしかしたらーーって思ったんですけど」

小池さんが私と緒方さんの顔を交互に窺う。

「ああ、俺と望海が知り合うきっかけを作ってくれたキミには報告した方がいいのかもしれないね」

緒方さんがにこりといい笑顔を見せているけれど、ちょっと待って欲しい。
報告って?報告って一体何をよ。

「俺たち、プライベートを一緒に過ごす関係になってね」

爽やかな笑顔でさらりと大嘘をつく緒方さんに唖然とする。
このひと、何を言っているんだ。
そんな事実はない。
全く。どこにも。全然。

「じゃあきっかけは私が作っちゃったってことですか」

「そうなんだよ。あの時は腹が立ったけど、あれもきっかけの1つだったから」

えええーっと小池さんが残念そうな声を出し、緒方さんはしれっと定食を食べ始めている。

「ちょっと・・・」口を開こうとした私の足がテーブルの下で軽く蹴られた。

むっとして緒方さんの顔を睨みつける。

「望海、俺来週からまた出張だから明日の夜空けといて。泊まりの支度も忘れるなよ。じゃないとまた俺のぶかぶかのスウェット着ることになるぞ」

ぶっ。
思わずお茶を噴き出しそうになって慌てて手で押さえた。

「まあ俺はそれでもいいけどな。かわいかったし」

「ちょ、ちょ、ちょっと何言ってんのよ」

真っ青になった私の足がまた蹴られた。

信じられない、なんなのコイツ、とまた緒方さんの顔を睨むと向こうもすごい眼力で私を睨んでいて思わず口を閉じた。

え、なんで私が怒られてるの。

「それと、今夜も飲み過ぎ注意だぞ」

私の額をコツンとした緒方さんの行動にムカッと腹が立って足を踏んでやった。

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