シークレットの標的(ターゲット)
このピリピリした感じ、なんか嫌なんだけど。
食欲はきれいさっぱり無くなっていて、ランチは食べかけだけどもう職場に帰りたい。

「でも今回だけ、キミにはこれをあげるよ。活用するのもしないのもキミの自由」

緒方さんが胸元から取り出したのは白い角封筒。
それをすっと小池さんの前に差し出す。

「これって?」
ためらう小池さんに中を開けるようにと促すと緒方さんはすぐに立ち上がりトレイを手にした。

「じゃあ、これでチャラってことで。もう俺たちには構わないようにして欲しい。
望海、明日の約束忘れるなよ」

あっという間に食べ終わっていたらしい緒方さんは私の頭に手を当てくしゃっとすると、呆気にとられる私を残して社食から出て行った。

明日の約束って、私は何も約束していないしそんなもの知らないんですけど。

鼻息を荒くする私と対照的に封を開けた小池さんが小さく息を呑んだ。

「ーーーこれパーティーの招待状です」

ん?と覗き込むと小池さんが私に見えるように広げてくれた。

クイーンズインペリアルホテルのオープニングパーティー?ってえええ?!

「あの、クイーンズインペリアル?」

商業施設を備えた世界的なホテルが新しく都内で開業すると大ニュースになっていた。そのパーティーなんてどれほどのセレブが集まるものなのか庶民の私には想像もつかない。

「その、クイーンズインペリアルの本物みたいです。芸能人から政治、経済・金融界、IT関係・・・おそらく招待客はすごいメンツですよね」
小池さんは何度も文面を読み返している。

この招待状の価値といったら、と考えるだけで恐れ多い。
こんな貴重なものを持っている緒方さんって一体・・・?

「ありがとうございます。私いい出会いを狙って頑張ってきます。大島さんから緒方さんにお礼を伝えておいてくださいね」

小池さんはわかりやすくご機嫌になり、心ここにあらずでいろいろ準備しないととスマホを開いて何やらポチポチやっている。

緒方さんって、一体何者でなにを考えているんだろう。

そして、私は何に巻き込まれているんだろう・・・

ちょっと飲み過ぎただけなのにーーー


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