シークレットの標的(ターゲット)
「やだ。だったら身体だけの関係なの?」

松平主任の一言に嫌な汗が噴き出した。

身体だけって。
そう言われると心はないのだし、身体だけというのもあながち間違いではないのかもしれないけれど。
酔っていて覚えていないのだから返す言葉もない。

「黙秘です」
これに限る。

主任は両手で頬を押さえてもじもじとしていて、草刈先生は興味津々って感じだ。

「緒方くんがあなたのこと情熱的だったっていってたけど、そんなに緒方くんのエッチってよかったの?」

絶句。 

そんなあからさまに淫らな発言をーーー緒方さんのエッチとかって・・・

想像したら、
寝起きで見た緒方さんのほどよい筋肉の半裸とか、三角筋から上腕二頭筋のラインが綺麗だったなとかを思い出し、あの腕に抱かれてあの大胸筋に自分がキスをしたのかと想像して思わず顔が熱くなる。

「もももも黙秘です」

ヤバイ、声が裏返った。

「うわ、いやらしい-」
「絶対に今思い出してたわね」

からかう二人のお姉様にこれ以上突っ込まれてはなるものかとそっぽを向いた。

「ねえねえ、男性サイドから情熱的だって言われるなんてどんなことしたの」

肩に手を置かれ、ねえねえと絡んでくる草刈先生に舌打ちしたい気持ちをぐっと堪えて羞恥に耐える。

「先生、飲み過ぎですよ」

「飲み過ぎなのはあなたの方でしょ。私はまだ一杯目だけど大島さんは来るなりがばがばと」

うん、それは否定できないんだけど。飲まなきゃやってられない。この目の前のお姉様たちのせいで。

「緒方くんって滅多に見かけないけど、今大人気なんでしょ。それを虜にするだなんてー。嫌だぁ、想像したらもう大島さんの事違う目で見ちゃいそう」

うふふなんて主任が色っぽい声で笑った。

松平主任もお酒の飲み過ぎだろう。
アルコールの影響か目元を赤くして、何だか色気を漂わせている。
そういえば、ウエストからヒップのラインが艶かしい。

やばい、私の方が主任の夜の顔を想像しちゃいそう。

そういえば、今夜の松平主任ってずいぶんと普段と印象が違う。

仕事中は真面目だし几帳面。私たち医療職は仕事中は基本白衣なんだけど、通勤着はもちろん自由である。
割とラフな格好で出勤する人もいる中で松平主任の服装はいつもきっちりとしている。

先日のランチの時にも感じたけれど、こうしてプライベートで飲んでみると、職場の歓送迎会の時と違ってかなりフレンドリーだ。

ぎゅうっと縛られた黒髪に黒縁眼鏡。
よく見るとお肌もつやつやでとてもアラフォーには見えないし、眼鏡の向こうにある瞳は切れ長の二重ですっきりとしたお顔をしている。長めの前髪に隠された素顔はーーーもしかして、わざと地味メイクをしているんじゃない?

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