シークレットの標的(ターゲット)
「一緒に居るときは妻を着飾らせ、会社に行くときは地味にさせて他人の目に留らせないようにするだなんて。そんな身勝手な男、私だったらゴメンだわ。」

「そんな生活は私も嫌かもデス。松平主任はいやじゃないんですか」

私も草刈先生の意見に完全同意。
持って生まれたものを隠すことに違和感と抵抗感を覚える。

「私はなんとも思わないわ。うちの家族がおかしいのかもしれないけど」
主任はくふんと笑って何かを思い浮かべるように目を細めた。

「とにかく親戚一同変わり者だらけだから、私のもっさりメイクや地味なファッションなんてかわいいものなのよ。それに女子の世界にいると美醜って大きな問題よね。ちょっと美人で嫌な思いをするなら地味女で周囲に紛れていた方がいいってこともあるわけ」

そう言って私の手から眼鏡を取り返し、また装着している。

もったいない。
主任の変わり者の家族とやらがどんな人なのかはわからないけれど、隠すのなら私にその美貌と色気を分けて欲しい。

「本当に理解できないわ。綾夜(あや)なんて、名前まで艶っぽいのに」

今度は草刈先生が主任の眼鏡を取り上げてテーブルに置いた。

「とにかく、今夜はこれはナシで。どうせたいした度は入ってないんだから」

私が隣で首を上下に振って同意を示すと主任は何か言いたそうにしていたけれど、すぐに諦めたようでお酒を飲み始めた。
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