シークレットの標的(ターゲット)
このメンツだけで飲むのは初めてだったにもかかわらず、秘密を共有しているせいか楽しくて時間を忘れて過ごしていた。
幸いあれ以降緒方さんの事は突っ込まれなかった。

「さて、明日も仕事だしそろそろ帰りましょうか」

腕時計を見た主任に促され私たちもスマホで時刻を確認した。

「うちの夫が迎えに来てくれるから主任も大島さんも送るわね」
草刈先生がスマホをタップしながら「もうそろそろ近くまで来ているはずだから」と席を立つと、私のスマホがブルブルと震え始めた。

自分のスマホ画面に表示された名前を見て身体が固まる。

緒方凌雅

どうしてこれが表示されるのかわからない。
緒方さんの番号を登録した記憶は無いし、番号交換もしていないはず。

このままスルーしちゃおうか
悩みながら画面を睨んでいると、ひょいっと隣から香取先生が私のスマホを覗き込んできた。

「あら、緒方君からじゃない。なにしてるの、早く出なさいよ」

うーん、でも。
出たくないからのろのろとしていると、草刈先生にスマホを取り上げられてしまい通話状態にされてしまう。

「緒方君?わたし草刈です。ーーーええ、もう帰るところだけど。ーー迎え?ーー私が送っていこうと思ってたけど、緒方君も来るの?」

草刈先生と緒方さんとの間で交わされている会話の中の単語に不穏なものを感じて慌てて草刈先生からスマホを取り返した。

「どうして電話なんてしてくるんですか」

『あ、望海。今夜は飲み過ぎてないか?』

「そんなことはどうでもいいんです。だから、なんで電話番号が登録されてるのかとかーー」

『こっちの接待は終わったから迎えに行く』

そこで電話はぷつりと切れた。

なんだそれー!!!!

怒りと同様でふるふると震えていると、草刈先生が心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「何だか、事情がありそうね」

「本当に付き合ってるわけじゃないんですよ。だから迎えに来られても困るんです。どこに居るか知らないくせに大体どうやって迎えにーー」

「あ、ゴメンね。私のせいだわ」

草刈先生が肩をすくめて両手を合わせた。

「今日の緒方君の接待の相手っていうのがうちの旦那とその関係者なのよね。緒方君が今日の診察の時に『ご主人をお借りします』って言うからつい私も主任と大島さんと飲みに行くから気にしないでって言っちゃったの」

なんとーーー情報の出所はここだったか。

いや、ショックを受けてる場合じゃない。
私がここに居ることがわかっているのなら本当にここに来るかもしれない。
逃げた方がいいんじゃないだろうか。

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