シークレットの標的(ターゲット)
お店を出てひとりで電車に乗って帰ろうとした私の目論見は外れ、前回同様タクシーに押し込まれた。
しかし、もう前回のような過ちを犯すわけにいかない。
お酒は飲んだけれど、前回ほど酔ってはいないし乗り物酔いも多分大丈夫。
もちろん緒方さんももうそんなこと望んでないだろうけど。
「噛み傷が消える前に健診受けてごめん?」
黙ってシートに沈み込んでいる私にまたイラッとさせる言葉をかけてくる無神経な男。
無言を貫いているとくすりと笑う気配がした。
「望海は健診の予定ないの?まだお腹にたくさんついてるよね。俺のキスマーク」
なっ。
タクシーの車内でなんてこと言ってるんですか。
ぎろりと睨んでからぷいと横を向いた。
こんなやつ、無視するに限る。
「そう怒るなって。さっきも謝っただろ」
謝ったとか謝ってないとかの話ではない。
「そういうことじゃないでしょ。私のこと虫除けにしようとしてあちこちで喋ったりしないでよ。迷惑なんだけど」
「え、まさか、俺のことやり捨てするつもりじゃないよな」
はああ?!
思わず緒方さんを二度見してしまった。
「あなた一体何言ってーーー」
焦ってる私と対照的ににやりと口角をあげて黒い微笑みを浮かべる緒方さん。
この男は悪魔だ。
私は悪魔に取り憑かれてしまったのかもしれない。
本社への出勤が増える生活になるから女よけが必要になったところにちょうどよく私がーーーってことなのだろうが、私から見たらいい迷惑だ。
「・・・お客さん、着きましたよ」
思い切り文句を言ってやろうと口を開きかけたところでタクシーの運転手さんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
文句を飲み込んでお財布を取り出そうとすると、緒方さんから止められる。
「お金はいいよ。今日の迷惑代に取っといて。今日は助かった。あの、うち海事の女子社員たちしつこくて迷惑していたんだ。ありがとう。今後はあんなこと言わないから安心して」
そうか自分の発言が私に迷惑かけてるのは十分理解していると。
「これからは本当にやめてくださいね」
「ああ、わかった」と緒方さんが頷いたのを確認した。
二度と言わないだろうなと睨むと微笑みが返ってくる。
降車のために停車したタクシーの車内で長話をするわけにもいかずシートベルトを外した。
「じゃあ送ってくれてありがとうございます。おやすみなさい」
タクシーを降りて、去って行く車のテールランプを見送って大きく息を吐いた。
数日前までの平和な生活が懐かしい。
今日は疲れた。
一日が長く濃厚だった。
それもこれも全て緒方さんのせい。
そういえば、私のスマホに番号が登録されていたのはなぜかとか、その後あの海事の女子社員たちとはどんな話になったのか、どうして草刈先生のご主人と一緒に居たのかとか、私に噛まれた傷は大丈夫かなど聞きたいことがあったのに何も聞いてない。
私は今夜もお酒の飲みすぎで頭が回っていなかった。
ーーー本当にお酒やめた方がいいのかも。
しかし、もう前回のような過ちを犯すわけにいかない。
お酒は飲んだけれど、前回ほど酔ってはいないし乗り物酔いも多分大丈夫。
もちろん緒方さんももうそんなこと望んでないだろうけど。
「噛み傷が消える前に健診受けてごめん?」
黙ってシートに沈み込んでいる私にまたイラッとさせる言葉をかけてくる無神経な男。
無言を貫いているとくすりと笑う気配がした。
「望海は健診の予定ないの?まだお腹にたくさんついてるよね。俺のキスマーク」
なっ。
タクシーの車内でなんてこと言ってるんですか。
ぎろりと睨んでからぷいと横を向いた。
こんなやつ、無視するに限る。
「そう怒るなって。さっきも謝っただろ」
謝ったとか謝ってないとかの話ではない。
「そういうことじゃないでしょ。私のこと虫除けにしようとしてあちこちで喋ったりしないでよ。迷惑なんだけど」
「え、まさか、俺のことやり捨てするつもりじゃないよな」
はああ?!
思わず緒方さんを二度見してしまった。
「あなた一体何言ってーーー」
焦ってる私と対照的ににやりと口角をあげて黒い微笑みを浮かべる緒方さん。
この男は悪魔だ。
私は悪魔に取り憑かれてしまったのかもしれない。
本社への出勤が増える生活になるから女よけが必要になったところにちょうどよく私がーーーってことなのだろうが、私から見たらいい迷惑だ。
「・・・お客さん、着きましたよ」
思い切り文句を言ってやろうと口を開きかけたところでタクシーの運転手さんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
文句を飲み込んでお財布を取り出そうとすると、緒方さんから止められる。
「お金はいいよ。今日の迷惑代に取っといて。今日は助かった。あの、うち海事の女子社員たちしつこくて迷惑していたんだ。ありがとう。今後はあんなこと言わないから安心して」
そうか自分の発言が私に迷惑かけてるのは十分理解していると。
「これからは本当にやめてくださいね」
「ああ、わかった」と緒方さんが頷いたのを確認した。
二度と言わないだろうなと睨むと微笑みが返ってくる。
降車のために停車したタクシーの車内で長話をするわけにもいかずシートベルトを外した。
「じゃあ送ってくれてありがとうございます。おやすみなさい」
タクシーを降りて、去って行く車のテールランプを見送って大きく息を吐いた。
数日前までの平和な生活が懐かしい。
今日は疲れた。
一日が長く濃厚だった。
それもこれも全て緒方さんのせい。
そういえば、私のスマホに番号が登録されていたのはなぜかとか、その後あの海事の女子社員たちとはどんな話になったのか、どうして草刈先生のご主人と一緒に居たのかとか、私に噛まれた傷は大丈夫かなど聞きたいことがあったのに何も聞いてない。
私は今夜もお酒の飲みすぎで頭が回っていなかった。
ーーー本当にお酒やめた方がいいのかも。