シークレットの標的(ターゲット)
ふぐとシークレット
***


翌日、いつものように出勤して、いつものように仕事に励む。

松平主任が戻ってきてくれたおかげで仕事の方は落ち着いているし、私は私の仕事だけすればいい状態になっていた。

この健康管理部門というのは学校の保健室のようなところというわけではなく、フロアの半分が病院の設備を備え、もう半分はデスクが並ぶ普通のオフィスなのである。

ラッキーなことに今日小池さんは診療補助の担当日なのでデスクフロアにはいない。

今朝、顔を合わせたときに輝く笑顔で挨拶されてちょっと戸惑った。

言っておいたメタボ指導の報告書も昨日のうちに提出されていたし、朝からご機嫌なのは昨日もらったパーティーの招待状の影響があるのだろう。
そのおかげで緒方さんとのことを詮索されずに済んでいるからいいのだけど。

このまま何の追求もされずに済ませたい。そして小池さんにはずっとご機嫌で仕事をしてほしいものだ。

草刈先生は各フロアに職場環境の巡視業務に回っていて、松平主任は会議に出席しているから二人ともいない。昨日の今日でちょっとホッとしてしまう。

私の性癖が誤解されてると思ったら気恥ずかしくて顔を合わせることに抵抗があった。
でも、きちんと訂正しておかなければいけないけど。
アレの最中、興奮して噛むとかそんなことしてないから。



「大島さん、来週分のチェックお願いします」

はいはい、仕事、仕事。
集中、集中。

ーーーあ。
事務職のスタッフから依頼され来週の海外長期滞在帰国者リストをチェックして気が付いた。

小林さん、イタリアから戻ってくるんだ・・・。

私の憧れの人、海外事業部の小林さんは昨年からイタリア支社に赴任していた。
それが一年も経たずに帰国することになったのは、海事の主力社員の高橋由衣子さん、旧姓佐本さんが本社を離れることになったためなんだろうか。

アクロスコーポレーションがイタリアに支社を作ったのは昨年のことだった。
支社長として赴任したのは当時社長秘書だった林さん。

当初、その右腕としてイタリアに赴任するのではないかと言われていたのは高橋さんだった。

高橋さんは『海事の薔薇の花』と呼ばれるほどの美貌を持ち、世界有数といわれるイタリア企業との契約に成功し、その後も次々と大きな仕事を掴んできたデキる女性だ。

噂ではその彼女がイタリア支社の立ち上げ直前に営業部にいる同期の高橋良樹さんと入籍し、日本を離れることを望まなかったために、海事の主任をしていた小林さんがイタリアに赴任することになったと言われている。

そして今回高橋さんはうちの会社を退職し、元々我が社の子会社だったご主人のご実家が経営するTHコーポレーションに就職することとなった。

彼女の抜ける穴は非常に大きい。それで小林さんが本社に戻ることになったのかも。



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