シークレットの標的(ターゲット)
海外事業部というところは我が社の花形部署の1つ。
エリート社員が何人もいるけれど、高橋由衣子さんの存在は特別だった。
きっちり後任を育て引き継ぎをして退職になるというもののあの彼女の後任なんてこんな短期間に育つはずがないのだ。
だから小林さんが戻ってくるのか。
私にとって小林さんは憧れの人だった。
懐かしい。
新入社員時代に小林さんの姿を見てときめいてしまった私。
それからは社内で出会わないかと常にアンテナを張っていたのだった。彼が海外渡航前の予防接種に来たときには心の中で狂喜乱舞したっけ。
その後、小林さんは本社から北海道支社に転勤になってしまいがっかりとしたのだけれど、1年と少し前に本社に戻ってきてまた会えるようになったと喜んだのも束の間今度はイタリアに行ってしまったのだった。
私の中ではアクロスの独身御三家より小林さんの方が好みで親しみ深い。
康史副社長、元社長秘書林さん、子会社の御曹司高橋さんよりもタイプなのは小林さん。
はっ、
もしかして新御三家には小林さんが選ばれてしまうかも。
そうなったらこの気持ちを誰かと共有できるけれど、小林さんに注目が集まってしまう。それはそれで『私の小林さん』的な感じが薄れる・・・。
ファン心理は複雑だ。
うーんと考えているとあっという間に定時という時刻になっていた。
デスクには松平主任も小池さんも戻ってきている。
主任はパソコン画面に向かい難しい顔をしていて、小池さんは帰宅準備をしていた。
慌てて事務スタッフにリストに間違いが無かったことを伝え、私も帰宅の準備に入る。
残業の予定はない。
今日は早く帰ってゆっくりしよう。
週末は同窓会であんなことがあったし、昨日は昨日でああだったし。
「皆さん、お疲れさまでした」
小池さんはご機嫌な様子でスマホ片手にいち早くフロアを出て行った。
「お疲れさまでした」
私も周囲に声をかけ立ち上がった。
スーパーに寄って買い物をしてーーーと考えながらフロアを出ようとしたところで入ってきた人とぶつかりそうになってよろける。
「すみません。大丈夫ですか」
「いや、望海も大丈夫だったか」
聞き覚えのあるその声に顔を上げると、
そこにいたのは想像通りの人物、緒方さんだった。
「どうしたんですかこんな時間に。診療時間は終わってますけど、体調不良ならドクターに診察を頼んであげますよ。草刈先生がダメでも田中先生もいるし。それとも事務に用事ですか?」
お高そうなスーツを着こなしたイケメンは昨日と同じく普通にイケメンで、見たところ顔色も悪そうではない。やっぱり事務に用事かも。
「迎えに来たんだけど、忘れてる?」
「え?」
首を傾げた私の腰に緒方さんが手を回す。
「約束しただろ。明日から出張で暫く会えないから今日はうちに泊まる支度をしておいでって」
人の悪い笑顔を浮かべている緒方さんに唖然とする。
何を言ってるんだ、この人はっ。アレは口だけだったんじゃないの?
しかも、私たちの周りには同じく帰宅しようとしているスタッフが何人もいてこちらを興味深げに見ている。
今の絶対に聞かれたし。
エリート社員が何人もいるけれど、高橋由衣子さんの存在は特別だった。
きっちり後任を育て引き継ぎをして退職になるというもののあの彼女の後任なんてこんな短期間に育つはずがないのだ。
だから小林さんが戻ってくるのか。
私にとって小林さんは憧れの人だった。
懐かしい。
新入社員時代に小林さんの姿を見てときめいてしまった私。
それからは社内で出会わないかと常にアンテナを張っていたのだった。彼が海外渡航前の予防接種に来たときには心の中で狂喜乱舞したっけ。
その後、小林さんは本社から北海道支社に転勤になってしまいがっかりとしたのだけれど、1年と少し前に本社に戻ってきてまた会えるようになったと喜んだのも束の間今度はイタリアに行ってしまったのだった。
私の中ではアクロスの独身御三家より小林さんの方が好みで親しみ深い。
康史副社長、元社長秘書林さん、子会社の御曹司高橋さんよりもタイプなのは小林さん。
はっ、
もしかして新御三家には小林さんが選ばれてしまうかも。
そうなったらこの気持ちを誰かと共有できるけれど、小林さんに注目が集まってしまう。それはそれで『私の小林さん』的な感じが薄れる・・・。
ファン心理は複雑だ。
うーんと考えているとあっという間に定時という時刻になっていた。
デスクには松平主任も小池さんも戻ってきている。
主任はパソコン画面に向かい難しい顔をしていて、小池さんは帰宅準備をしていた。
慌てて事務スタッフにリストに間違いが無かったことを伝え、私も帰宅の準備に入る。
残業の予定はない。
今日は早く帰ってゆっくりしよう。
週末は同窓会であんなことがあったし、昨日は昨日でああだったし。
「皆さん、お疲れさまでした」
小池さんはご機嫌な様子でスマホ片手にいち早くフロアを出て行った。
「お疲れさまでした」
私も周囲に声をかけ立ち上がった。
スーパーに寄って買い物をしてーーーと考えながらフロアを出ようとしたところで入ってきた人とぶつかりそうになってよろける。
「すみません。大丈夫ですか」
「いや、望海も大丈夫だったか」
聞き覚えのあるその声に顔を上げると、
そこにいたのは想像通りの人物、緒方さんだった。
「どうしたんですかこんな時間に。診療時間は終わってますけど、体調不良ならドクターに診察を頼んであげますよ。草刈先生がダメでも田中先生もいるし。それとも事務に用事ですか?」
お高そうなスーツを着こなしたイケメンは昨日と同じく普通にイケメンで、見たところ顔色も悪そうではない。やっぱり事務に用事かも。
「迎えに来たんだけど、忘れてる?」
「え?」
首を傾げた私の腰に緒方さんが手を回す。
「約束しただろ。明日から出張で暫く会えないから今日はうちに泊まる支度をしておいでって」
人の悪い笑顔を浮かべている緒方さんに唖然とする。
何を言ってるんだ、この人はっ。アレは口だけだったんじゃないの?
しかも、私たちの周りには同じく帰宅しようとしているスタッフが何人もいてこちらを興味深げに見ている。
今の絶対に聞かれたし。