シークレットの標的(ターゲット)
「緒方さん、誤解を招くような発言は控えてもらっていいですか」
ここで動揺して騒ぐとまた彼の思うつぼだ。
腰に回された手を払ってーー払ってーー
あれ?払ってーー
って全然払えないじゃないかっ。
腰に回された手はがっちりと私のぷに肉を掴んでいて、はじいたくらいでは外れない。
何なの、これ。
ぷに肉を摘まむなっ。
表面で平静を装いながら心の中では緒方さんの手をはずそうと必死になって格闘していると
「え、君たちってそういう仲だったの。知らなかったよ、ふうん」
と背後から聞き覚えのない声がした。
誰だろうと振り返った先にいたのはーーー
ーーータヌキだった。
「お疲れ様です。神田常務。ここに用事ですか」
顔見知りらしい緒方さんが笑顔で返事をする。
「そんなことより君たちだよ。ねえ、いつからなの?」
常務は興味津々という感じでくりくりとしたつぶらな瞳を私たちに向けてくる。常務と面識のない私は緊張し頭を下げるだけで精一杯で言葉を返すこともできず。
「ゆいゆいみたいに急に入籍とかしないよね。いや、おめでたい話だからしてもいいけどさ、どっちかが急に退職するのは勘弁して」
「今のところ退職は考えていませんよ」
さらりと緒方さんが返事をする。
「そっか、よかった。緒方君のことだから彼女のこと囲い込んで隠しちゃいそうだと思ってさ」
「ええ、それは否定できませんが今のところは大丈夫です、ご安心ください。ただ体調の変化などがあった場合には・・・」
「うん、それは仕方が無いことだよ。母体の安全が第一だしね」
話が見えずおろおろとしていると、不穏な言葉が飛び出して目が点になる。
ぼ、母体???
母体ってあの母体?母が子を孕むあの。
誰が誰の赤ちゃんをーーー
話が思ってもみない方向に進んでいる。
私の腰をがっちり掴む緒方さんの腕に神田常務の生暖かい視線が固定されていることに気が付いた。
「いえ、あのこれは、なんでもなくて、誤解です」
ぺしぺしと緒方さんの手を叩いて外そうとするけれど、やっぱり外れない。
「いいよ、いいよ、社内だからってそれくらいなら気にすることないって。もう定時過ぎてるし。だから僕も私用ででここに来たんだしね」
ふくふくとしたほっぺたがふわっと持ち上がり、可愛らしい笑顔で常務が私と緒方さんを見比べる。
「こうして見るとお似合いだね。騒音は気にしないで頑張って。何か困ったことがあれば常務室に来るといいよ」
「常務は常務室にはいないという噂ですが」
緒方さんが失礼とも思えるような言い方をして聞いている私の方がドキドキする。
「うん。だから僕じゃなくて常務室にいる早希ちゃんが何とかしてくれるから」
「そういうことですか。確かに有能ですよね、谷口さん」
私が言葉を挟めぬまま会話が進んでいる。
すっかり常務に誤解されているのはわかっているけれど、緒方さんがあまりにも堂々としていて口を挟めなかったということもある。
これは女よけ芝居の延長戦突入。
確か昨日の夜、もうあんなこと言わないからとか何とか言ってなかったっけ。何なんだ、この男は。
「うちには早希ちゃんの他にもポチ君がいるからね。力になれることも多いと思う。いつでも来るといいよ」
そう言うと、常務は受付カウンターの奥にあるデスクフロアに向かって大声を出した。
「おーい、綾夜~!」と。
『あや』と言う名前の人物はこのフロアには一人しかいない。
そう、あの松平主任だ。
呼び捨てにする関係ーー?
ここで動揺して騒ぐとまた彼の思うつぼだ。
腰に回された手を払ってーー払ってーー
あれ?払ってーー
って全然払えないじゃないかっ。
腰に回された手はがっちりと私のぷに肉を掴んでいて、はじいたくらいでは外れない。
何なの、これ。
ぷに肉を摘まむなっ。
表面で平静を装いながら心の中では緒方さんの手をはずそうと必死になって格闘していると
「え、君たちってそういう仲だったの。知らなかったよ、ふうん」
と背後から聞き覚えのない声がした。
誰だろうと振り返った先にいたのはーーー
ーーータヌキだった。
「お疲れ様です。神田常務。ここに用事ですか」
顔見知りらしい緒方さんが笑顔で返事をする。
「そんなことより君たちだよ。ねえ、いつからなの?」
常務は興味津々という感じでくりくりとしたつぶらな瞳を私たちに向けてくる。常務と面識のない私は緊張し頭を下げるだけで精一杯で言葉を返すこともできず。
「ゆいゆいみたいに急に入籍とかしないよね。いや、おめでたい話だからしてもいいけどさ、どっちかが急に退職するのは勘弁して」
「今のところ退職は考えていませんよ」
さらりと緒方さんが返事をする。
「そっか、よかった。緒方君のことだから彼女のこと囲い込んで隠しちゃいそうだと思ってさ」
「ええ、それは否定できませんが今のところは大丈夫です、ご安心ください。ただ体調の変化などがあった場合には・・・」
「うん、それは仕方が無いことだよ。母体の安全が第一だしね」
話が見えずおろおろとしていると、不穏な言葉が飛び出して目が点になる。
ぼ、母体???
母体ってあの母体?母が子を孕むあの。
誰が誰の赤ちゃんをーーー
話が思ってもみない方向に進んでいる。
私の腰をがっちり掴む緒方さんの腕に神田常務の生暖かい視線が固定されていることに気が付いた。
「いえ、あのこれは、なんでもなくて、誤解です」
ぺしぺしと緒方さんの手を叩いて外そうとするけれど、やっぱり外れない。
「いいよ、いいよ、社内だからってそれくらいなら気にすることないって。もう定時過ぎてるし。だから僕も私用ででここに来たんだしね」
ふくふくとしたほっぺたがふわっと持ち上がり、可愛らしい笑顔で常務が私と緒方さんを見比べる。
「こうして見るとお似合いだね。騒音は気にしないで頑張って。何か困ったことがあれば常務室に来るといいよ」
「常務は常務室にはいないという噂ですが」
緒方さんが失礼とも思えるような言い方をして聞いている私の方がドキドキする。
「うん。だから僕じゃなくて常務室にいる早希ちゃんが何とかしてくれるから」
「そういうことですか。確かに有能ですよね、谷口さん」
私が言葉を挟めぬまま会話が進んでいる。
すっかり常務に誤解されているのはわかっているけれど、緒方さんがあまりにも堂々としていて口を挟めなかったということもある。
これは女よけ芝居の延長戦突入。
確か昨日の夜、もうあんなこと言わないからとか何とか言ってなかったっけ。何なんだ、この男は。
「うちには早希ちゃんの他にもポチ君がいるからね。力になれることも多いと思う。いつでも来るといいよ」
そう言うと、常務は受付カウンターの奥にあるデスクフロアに向かって大声を出した。
「おーい、綾夜~!」と。
『あや』と言う名前の人物はこのフロアには一人しかいない。
そう、あの松平主任だ。
呼び捨てにする関係ーー?