シークレットの標的(ターゲット)
「俺と望海の子どもか。それもいいよな」

それまでの意地悪そうな顔ではなくにこりとして「な」と同意を求めてくる。その顔にちょっとドキッとしたのは彼がイケメンだからだ。

「いいわけないじゃないですか」

こんな状態で妊娠などしてしまったら困るのは緒方さんだって同じなのに。

「真面目に話してください」

「話してるさ。なあ、俺たちの子どもってかわいいと思わない?」

しつこい。
こんなシビアな話をのんきにひれ酒飲みながらってのもありえないし。
まあ妊娠の可能性はほぼほぼないのだけれど。

「はいはい、緒方さんのお子さまで緒方さんに似たら可愛らしいでしょうね」
母親が誰であろうとも。

「冷たいね-」

緒方さんは運ばれてきたばかりの次のひれ酒に手を伸ばした。

「そういえば、小池さんは例のパーティーのこと何か言っていた?」

「今日は担当が違っていたから特に会話をしていないんです。だから何も。浮かれていた様子でしたけど」

今日もご機嫌で一番に帰宅していたし。

緒方さんはふうんと興味なさげに声を出しまたひれ酒を口に運んだ。

「あのパーティーの招待状ってかなり貴重なものだと思うんですけど、あんなものを小池さんに渡してよかったんですか」

色々な人が喉から手が出るほど欲しがるプラチナチケットだと思う。そしてもっと役立つ使い道があるはずだとも思ってしまった。小池さんごめん。

「いいんだ。あんなもので彼女がこちらに近付いて来なくなるのなら安いものだ」

「それならいいんですけど」

それから次々と料理が運ばれてきて話は食べながらということになった。

久しぶりのふぐに頬が緩みそうになるけれど、きっちりと話だけはつけておかなきゃいけない。

「緒方さん、しつこいようですけど、さっきの常務の件もそうですが、私と付き合っているように周りに匂わすのはやめていただけませんか」

「どうして?」

「どうしてって…」

迷惑だからに決まってるだろ。

いかん、またイライラしてきた。
この人、海外生活が長すぎて日本の一般常識とか日本語が不自由になっているんだろうか。

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