シークレットの標的(ターゲット)
「先に1つ言っておくけど」

緒方さんは今度はお箸を置いて真剣な顔をして私を真っ直ぐ見据えた。
さっきとはがらりと雰囲気が違う。

やっと真面目に話をしてくれる気になってくれたらしいことにほっとする。

「さっきも言ったけど、君と俺は一夜を共にしたのだから、君には妊娠の可能性がある。だから、もしそうなった場合、俺は喜んで子どもの将来を背負いたいと思ってる。それだけは忘れないで欲しい」

「えっ」

その可能性は少ないと思っていた私はほとんどその心配をしていなかった。
緒方さんのその真面目な言葉に驚いて固まる。

「でも、気をつけてくれたって」

「それは勿論。でも100パーセントの安心なんて無いだろう」

「それはそうですけどーーー」

「授かり婚っていうのも悪くはないけど、俺と望海の場合、付き合ってもいなかったんだからいきなりってことになるよな。周囲だって変な目で見るやつがいるかもしれない」

確かに私たちの場合そうなると、付き合っている二人が妊娠をきっかけに結婚するというパターンではない。

「だからせめて今からはただの知人から友人に格上げ。親しい関係になって相互理解しておくのがいいと思う。そして、妊娠していたらきちんと結婚しよう。愛情はすぐに育つものじゃないけどそこは徐々にってことで」

ええっと、それは、妊娠前提の話になっているのでは。
そこまで考えているのかと驚きと共にため息が出る。

「可能性は極めて低いですよ」

「でも、ゼロじゃない。だろ」

「・・・そうですね」

緒方さんの言ってることは間違いない。妊娠の可能性はゼロじゃない。

「だから、望海はもう少し打ち解けてくれてももいいんじゃないか。明日から俺はまた出張でしばらく日本にいないのだし」

そう言われるとそうなのかもしれない。

今の私と緒方さんの関係は身体の関係があるにも関わらず、ただの知人よりも薄い。

ないと思うけど、もし妊娠していたら私は子供のお母さんで父親は間違いなく緒方さんだ。
結婚云々は置いておくとしても、私は必ず産むだろう。その場合、子供を挟んでの緒方さんとの関係は消えてなくなることはない。

だったら、今は同じ会社に勤務している顔見知りという間柄より一歩すすんだ友人にならなってもいい。
食べ物の趣味もお酒の趣味も合っているし。

「緒方さんの言いたいことはわかりました。とりあえず友人になりましょう」

私が頷くと、緒方さんは理解してくれて良かったと微笑んだ。

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